第32話
~ハルが異世界召喚されてから2日目~
今日は魔法学校の試験日、もう何回も試験を受けているハルは、
──そろそろ飽きてきた。
実技試験でレイが全ての的に命中させると周りがどよめく。
──ホント、毎回皆同じようにリアクションするよな……ちょっと驚かせてみようか?でも流石にヴァーンストライクだと王国を壊しちゃうから…第二階級魔法でいくか?
「ミナミノ君?君の番だよ?」
試験官のエミリオが告げると、レイ以外の受験生がクスクスと笑い出した。
「魔法だせねぇんじゃね?」
「これだから下民は……」
また貴族出身の受験生がハルを馬鹿にしてくる。
ハルは思う。
──懐かしいなこの感じ、あの時は恥ずかしくて顔から火が出そうだったのに……
ハルは冷静に魔力を込めて、地面に手をつくと唱えた。
「ファイアーエンブレム」
的を中心にして地面から赤い魔法陣が浮き上がると、炎が吹き上がり、的を焼き付くした。
残ったのは黒焦げになった鉄のような箱だけだ。
レイとは対照的にハルが第二階級魔法を行使すると周囲は沈黙した。馬鹿にしていた受験生貴族達は息をするのを忘れているみたいだった。
不意にハルはレイの顔を見た。レイは笑っていた。それは意外な反応であった。
──うぅ…もっと驚くと思ったのに……
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廊下を歩くスタン。試験は終わった。後は採点して合否を決める。実技でまず合否を決め、その中で魔法を行使できなかった者は筆記で判断するといった具合だ。ほとんどの者が合格できるだろう。
スタンは実技試験の採点に関わっていた。特に気になったのはブラッドベル家の次男の結果だ。スタンはレイの魔法を拝むことが出来なかったので担当した先生に聞きに行った。
審議中の部屋に入るとなんだか騒がしい。
「何者なんだ!?このハル・ミナミノは?」
「わかりません!孤児院出身としか記載されていません」
「孤児院!?じゃあルナ先生に……」
スタンは彼等の話を遮った。
「どうしたんです?」
スタンの声に反応するエミリオは言った。
「スタン先生!我々が担当した受験生の中に第二階級魔法のファイアーエンブレムを唱える者がいたんです!」
スタンは驚いた。
「なっ!?一体誰が?」
──まさかブラッドベルの次男が……
「ハル・ミナミノという少年です」
「…ミナミノ?聞いたことのない名ですね」
スタンは聞き慣れない名に困惑していた。まさか自分と同じ第二階級の火属性魔法を使う者が受験生に現れるとは思ってもみなかった。この学校に先生ではスタンともう一人だけが第二階級の火属性魔法を行使することが出来る者がいる。後は第二階級の風属性等の他の属性を行使できる先生達がいた。校長に至っては第三階級まで唱えられるが、校長が第三階級魔法を唱えてしまうと学校全体が火の海にのまれてしまう。
「この歳で第二階級魔法を行使できるとは…王国の救世主ですね!」
エミリオを始め、他の先生達が興奮する一方、スタンはその耳馴れない名前の受験生についての情報を欲していた。
「先程、孤児院がどうとかって…」
「そうなんです!このミナミノ少年は孤児院出身みたいなんです。だからルナ先生がこの少年のことをご存知かと」
「そうですか……」
この情報は非常に厄介だ。明後日控える襲撃の障害になり得る。
スタンは思案しながら部屋をあとにした。
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「お疲れぇ!!」
ショートカットで腕には宝石が埋め込まれている腕輪をしたアレックスが気さくに話しかけてきた。
「お疲れ様」
ハルも笑顔で答えた。
「試験どうだった?」
「ん~まぁまぁかな?え~と……」
「私はアレックス!アレクサンドラ・ルチル!!でこっちは」
「マリア・グランドールです」
アレックスの後ろに隠れるようにマリアがいた。
「僕はハル、ハル・ミナミノだ。」
「ミナミノ?聞かない名前だね」
「ここら辺の生まれじゃないからね」
「そんなことよりも助かったよ!」
「あぁカンニングしてたね」
「バレてたかぁ!それでも見せてくれてたんだね!優しい!わたし視力がずば抜けて良いからさぁ~おかげで計算が全然できなくって!何なのあの数式ってやつ!見るだけで眠くなる!闇属性の魔法みたいに眠くなる!」
「ダ…ダメだよズルしちゃ…」
マリアがおどおどしながら言うと、
「いいのいいの!それよりどっかでお茶しない?」
「あぁ~僕、お金持ってないんだ」
「私が奢るに決まってるでしょぉ!ハルは私の合格を手伝ってくれたんだから!」
この会話も慣れたものだった。
紅茶を啜りながら3人は談笑する。
「きっとAクラスに入れる気がする!ハルはどうだった?実技試験」
「ん~どうだろう?」
今回は孤児であるか?なんて聞かれなかった。もしかしたらAクラスに入れない要因は身元不明瞭な孤児だからなのかもしれない。
「ハルもAクラスだよ!だってあんなに頭がいいんだもん!」
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合格発表の掲示板の前でアレックス、マリア、ハルは顔を見回した。
「やった!みんなAクラスだね!」
「あっ受かってる…」
──そりゃあ、第二階級魔法唱えたらそうなるか?
アレックスとマリアがいる中、ルナと出くわした。
「ハル君!…結果はどうだった?」
「受かりました!Aクラスです!」
「すっごぉ~い!」
ルナがハルの手を握り、嬉しそうに見つめながら言った。ハルは手を握られ照れ臭そうに頭を掻くと、
ゴーン ゴーン
景色は一変、路地裏だ。
「こんなんで戻るのかよ!!」
ただ、この喜びは今までの経験した喜びの中でもトップ3くらいに入るとハルは確信していた。
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~ハルが異世界召喚されてから2日目~
「受かりました!Aクラスです!」
「すっごぉ~い!おめでとぉ~!」
ハルは手を握られ照れ臭そうに頭を掻いた。
「ありがとうございます!」
「それでそちらの可愛らしい子達は?お友達?」
「はい!アレックスとマリアです!」
ハルが二人を紹介して彼女達に手を広げる。
「あ…あの私、先生に憧れていて 」
フルフルしながらマリアが声を出す。
「私もです!」
アレックスもどこか緊張ぎみだ。
「そうなの?嬉しいわ!私は聖属性の講義をしているから、もしよかったら二人ともとってみて?これから宜しくね」
「「はい!」」
ルナを見送る一堂。姿が見えなくなるとアレックスとマリアがこちらに向き直り、あれこれと聞いてきた。
「なんでルナさんと知り合いなの?」
「昨日泊めてもらったからだよ」
「泊まるってルナさんの家に?!」
「正確にはルナさんが住み込みで働いてる教会に泊まったんだ。これからもそこで働くつもりだよ」
「「どおして!?」」
「ちょっと二人とも落ち着いて!」
二人を宥めながらハルはゆっくりと説明していった。
この夜、孤児院でハルが第二階級魔法を行使したことを知ったルナにめちゃくちゃ褒められたが、戻ることはなかった。
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自室に戻ったスタンは暗がりの中、水晶玉のようなものに手をかざしていた。それは遠く離れた所でも連絡のとれる帝国お手製の魔道具だ。手をかざすと水晶玉が輝く。
「スタンさん。少し遅かったじゃないですか?」
水晶玉から声が聞こえる。落ち着き払った声だが、人間味をあまり感じない声でもあった。
「申し訳ありません。明後日の襲撃において懸念すべきことがあり、そちらを調べるのに少々手間取りました」
スタンは水晶玉に手をかざしながら答えた。
「懸念とは?」
またも水晶玉から声がきこえる。
「はい。今日はご存じの通り試験日だったのですが、受験生の中で1人、第二階級の火属性魔法を唱える者がおりました。明後日の襲撃の時に障害になり得るのではないかと思いまして……」
「なるほど…何者です?まさかブラッドベル家の次男ですか?」
「私もそう思ったのですが、別の者でした。出生まではわかりませんでしたが、その者はルナ・エクステリアのいる孤児院出身のようです」
「それは…厄介ですね……」
「私が受け持つクラスの生徒に彼はなったので、明日接触し、実力の程を確かめようかと……」
「わかりました。場合によっては襲撃を中止するかもしれません。くれぐれも慎重にお願いします」
「承知しました……」
水晶玉の光が消え、声もしなくなった。
ふぅとスタンは一息つくと、肩の力を抜いて口にする。
「毎回緊張すんだよなこれ……」
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