第28話

~ハルが異世界召喚されてから3日目~


 昨日は試験が終わった後アレックスとマリアとお茶をした。


 しかし、驚いたのは実技試験だ。


 自分が第四階級魔法を習得している為、第一階級であるファイアーボールを撃とうとするとまたかなりの威力になってしまっていた。放つ直前にこれはマズイと気づいたハルはかなり威力を弱めたつもりだったが、その訓練もろくにしていなかった為、またも上手く加減ができなかった。


 それでもBクラスだった。


 おそらく孤児であるか?の問いは孤児のお前がAクラスには入れないよという意味合いがあるのだろう。


 ──あの試験官…なんだか底意地の悪そうな顔してたからな……


 ラースと出会い、学校を終えると、マキノに本を読み聞かせる。そしてルナが帰ってきた。


 ルナの元気がない。


 ──…戦争に行くんだったな…待てよ!その戦争!今の僕の強さならだいぶ戦力になるんじゃないか?そうだ!その戦争までにもっと修行をしてヴァーンストライクやフレアバーストを連発できるようにすれば……


~ハルが異世界召喚されてから4日目~


1時限目

<魔法歴史学>


 ──魔法歴史学の授業……つまらん!!もう何回同じ授業聞いてんだよ!!


 授業中暇なので、違うことを考えていた。


 ──第四階級魔法が使えるんだから第二、第三階級は簡単に使えるんじゃないだろうか?次の時間で試してみようか?


2時限目

<第二階級火属性魔法演習>


「だって見ろよ?Aクラスの女の子達!皆貴族のスーパー美人のお嬢様達だぜ?あのクラスにいるだけでも幸せじゃねぇか?」


ゲスい顔になるラース。別に涎も出てないのに口元を拭っていた。


「ハル~~!」

「ハルく~ん」


 アレックスとマリアが手を振っている。


「アレックス!マリア!二人とも元気?」


「うん!元気!」


 マリアが可愛らしい笑顔で答える。


「げげ、げ、元気だよ!!」


 アレックスは顔を赤らめながら少し横を向いて答える。


 ──はぁ今日もカッコいいなぁ……


 アレックスがハルのことをチラチラ見る。


 担当のスタンが訓練場にやって来た。


「あっ!!」


 忘れていた。2限目の第二階級火属性魔法演習の先生はスタンだった。ハルの心臓が締め付けられる。なんせ殺されかけているのだから。


 ステータスウィンドウを確認させ、いつもと同じ授業をいつもと同じテンションで始めるスタン。


 ハルは無意識に憎しみを込めた視線を送っていた。


─────────────────────


 スタンは訓練場に入ると新入生達を見渡して挨拶をする。


「いよぉ~し!俺はこの授業の担当をするスタン・グレンネイドだ!ちなみにAクラスの担任もしてるぞ!宜しくな!」


 各自にステータスウィンドウを確認させ、授業に入った。


 1人だけ自分に殺気を向けてる生徒がいる。


 ──アイツ…確か…ハル・ミナミノ。


 デモンストレーションで第二階級魔法を唱えるスタン。横目でまたハルを見た。


 ──あのガキまだ俺に殺気を向けてやがる……


 各自、魔法を唱えている中1人だけ殺気を振り撒き、なにもしないハルにスタンは仕掛けた。


「どうした?出来そうか?」


「いえ、出来ませんけど……」


「ちょっとやってみてくれないか?」


 ──これでどのくらいの魔法を使うか試してやろう。


 ハルはいつも聞かれないことを聞いてきたスタンに面食らった。


 ──どうしようか……待てよ?どうせコイツ倒したらまたあの時間あの場所に戻されるだろ?たぶん僕よりレベル高いと思うから、倒せばレベルも上がると思うし…だったら今殺せば…まてまて!もし戻らなかったらどうする!この前はレベルは上がったけど戻らなかったじゃないか!?それにまだコイツは悪いことしてないし……してるのか?スパイだもん……


「ファイアーエンブレム!」


 ハルは魔力を中指と小指にだけ集めてそれを地面につけて唱えた。もちろんスタンにそれを悟られないよう素早く。


 普通の人が唱えるくらいのファイアーウォールが顕現する。


 ハルは恐る恐るスタンの顔を覗くと。


「それじゃあ普通のファイアーウォールだな!もう少しグワッとボンってな具合で唱えないとダメだぞ!?」


 スタンの反応を受けてハルは安堵した。


 ──良かったぁ~逃れた!てかコイツこんな教え方で先生やってちゃダメだろ!?


 スタンは適当なアドバイスをハルに送った。


 ──アイツ…指先だけに魔力込めて常人と同じくらいのファイアーウォールを唱えやがった…しかし警戒しすぎか?あのくらいだったらレナードにもでき…待て待て、アイツはまだ一年じゃねぇか!


 ハルに対する評価がぐらつく。


 ──宮廷魔道師のギラバがいれば…受験生のステータスを見れたのに…確かに目を見張るモノをハルは持ってるが俺の敵じゃない…か。

 

 試験中は鑑定スキル持ちの宮廷魔道師であり魔法兵団の特別顧問ギラバが遠くで受験生達のステータスを見るのが通例だった。しかし現在、王国領城塞都市トランで帝国と睨み合いをしている最中だ。そこにギラバを置くことにより帝国を牽制する役割を担わせていた。その為受験生達のステータスは後に開かれる三国魔法大会にて測ることになっていた。ちなみにそれを見越して、今回の襲撃事件を帝国は計画している。


3時限目

<神学>


 スタンが屋上でルナを見付けるのに少し時間がかかるはずだ。謎に丁寧口調なこれからやってくる襲撃者を殺してから、Aクラスのスキンヘッドの男を殺って、屋上に行ってスタンを殺れば良い。


 ──って殺すとか殺るとか僕はいつからこんなことを平気で考えるようになったんだ?


 この世界で何回も死にかけ、4人も殺している。そしてその4人とも今は生きている。命の尊さなんて今のハルに於いては軽んじられて当然のことだった。


 ──だって、殺したところでまた戻ればその人達生き返るんだもん……


 ハルはBクラスの教室に入るといつもの席に着いた。


「おーい!ハル!隣いいか?」


 ラースが隣に座る。


「良いって言う前に座ってんじゃん!」


「まぁ固いこと言うなよ」


 いつもと同じ会話が繰り広げられる。


 あの男が教室に入ってきた。階段をコツコツと音を立てて下りていく。教室の底までたどり着き教壇に立つとその男は言った。


「さぁこれから皆さんには殺し合いをして……」


「ファイアーボール」


 ハルは実技試験よりさらに加減したファイアーボールを唱えた。


 男は防御する素振りもみせず火球をもろに受ける。


 黒煙と火の粉を散らしながら燃え盛る男をハルは冷たい視線で見ていた。

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