第27話

~ハルが異世界召喚されてから1日目~


 ハルは図書館へ行きしなもう一度自分のステータスを確認した。


【名 前】 ハル・ミナミノ

【年 齢】 17

【レベル】  8

【HP】  93/93

【MP】  90/90

【SP】 115/115

【筋 力】 58

【耐久力】 75 

【魔 力】 78

【抵抗力】 74

【敏 捷】 71

【洞 察】 74

【知 力】 931

【幸 運】 15

【経験値】 100/900


・スキル 

『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『自然の摂理』『感性の言語化』『第四階級火属性魔法耐性(中)』『第三階級火属性魔法耐性(強)』『第二階級以下火属性魔法無効化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』


・魔法習得

  第一階級火属性魔法

   ファイアーボール

   ファイアーウォール


  第一階級水属性魔法

   ウォーター


  第一階級風属性魔法

   ウィンドカッター


  無属性魔法

   錬成


 ──どういうことだ?あの青い炎は第四階級の火属性魔法なのか?いや…自分が第一階級魔法を覚えてもその属性魔法に対する耐性なんてのは付かなかった…つまり、僕が唱えた魔法は第五階級魔法!?


 そしてわかったことが1つ、新しいスキルを獲得したからといって問答無用で戻ることはない。


 イングリッドに担ぎ運ばれることなく、魔法を唱えた時点で戻るはずだ。


 ──あと無属性魔法?そんなの図書館の本には何も書いてなかった……


 スキルの自然の摂理はなんとなく理解できた。文字化けしてるのはきっとここに来る前の知識だからだと予想できる。


 ──他の文字化けスキルもそうなんじゃないかな……


 ハルはそう直感した。そしてスキル自然の摂理の効果を読んだ。


『自然の摂理』

【無属性魔法の錬成を顕現させる。神の招待状の一つ】


「神の招待状?」


 ハルは考えた。


 ──1つってことは全部で幾つあるのだろうか……


 文字化けスキルを全て開放させればその答えがわかるかもしれないとハルは思う。


 そして図書館に向かっている最中にとある不思議な出会いを思い出した。


◆ ◆ ◆ ◆


『貴方がここへ来る前につけた知識を使うのです』


◆ ◆ ◆ ◆


 ──あの占い師が言っていたこと。まさかな……


<図書館>


「フレデリカ先生!!」 


 図書館の司書をしていてここに来る人物をフレデリカは良く記憶していた。というのも来る人は少なく、限られた人物なので覚えやすいからだ。しかし、この身なりの良い少年のことをどうしても思い出せない。しかも自分のことを先生呼ばわりするこの子はいったい。


 ──確かに先生には憧れていたけど


 フレデリカは先生と呼ばれ満更でもない気分になっていた。


「どうしたの?」


 ──って!しまった!つい浮かれてタメ口になってしまった!この服装は貴族の子かも知れないのに……


「先生!えっと…青い炎の魔法について教えてほしいんですけど」


 少年は自分のタメ口になんの違和感も感じていなかった。


 ──それにしても青い炎の魔法なんて!!


「それをどこで知ったの!?そんなマニアックなネタをどこで入手したの!?」


 大魔導時代、妖精族、魔族、竜族が跋扈していた時代。その中でも火属性魔法を得意としていた魔族、竜族が使っていた第四階級以上の火属性魔法の火は空よりも青い色だったと、ある古文書に記録されている。これを知っている人は極僅か、なんせ大魔導時代に生きていた者達にとっては第四階級以上の火属性魔法は青い炎であることは常識なのだから、その常識を敢えて文書に残すことはない。このことはおそらく学校の先生すら知らないだろう。


 ──この情報をこの子は何故知っているのだろうか!?


 フレデリカがいつになく前のめりになっているためハルは彼女のスイッチをいれてしまったと思った。しかもこの反応は普通の人なら絶対に知らないことのようだ。というのも情報と言うところをネタと言っている辺り知っている人はかなり少ないだろうと予測できる。


「あの…魔法学校の校長先生が仰っていたと父上が……」


 ──こう言っておけば大丈夫だろう


「成る程!流石校長先生ね」


「それで、その青色の炎については…?」


「あぁそうね!それは……」


 フレデリカは説明する。


「つまり、第四階級以上の火属性魔法の炎の色は青色なんですね?」


「そう!そういうこと!だけど第四階級なんて人族では無理なのよ。絶対に越えられない壁なの」


「そうなんですか…因みに今この世界で唱えられる方はいるんですか?」


「そうねぇ、今も何処かにいる竜族ならできるんじゃないかしら……」


「え!竜族ってまだいるの?」


 ハルはキラキラした目で質問していた。端から見ればフレデリカと同じオタクだと思われるだろう。


「えぇ竜族は今でもどこかにいるらしいわ。目撃情報があちこちにあるの。ちなみに魔王は、第六階級魔法を唱えられたそうよ?それと勇者ランスロットもそのくらい唱えられたと私は睨んでるわ!湖の妖精に鍛えられたんですもの!そのくらい唱えられると思うの!しかもその湖の妖精はヴィヴィアンだと主張してる人も…」


「へ、へぇ~!!」


 ハルは遮った。竜族に関しては地球で言うUFOみたいな感じだろうか。


「因みに第四階級の火属性魔法にはどんなものがあるんですか?」


「そうねぇ、ヴァーンストライクとかかしら」


「どういう魔法なんです?」


「青い炎が標的に当たるまで一直線に進む魔法よ!要はファイアーボールの上位互換ってところね。破壊力はその数十倍?」


「凄い!そんな魔法があるんですね!ちょっと試してみます!」


 ハルは図書館から勢い良く出ていった。


「え?ちょっと!試すって…フフ」


 フレデリカは子供の時の自分を思い出していた。


 ──私も出来もしない魔法を詠唱だけしてたっけ……


 ハルは魔の森にむかう途中で無属性魔法について訊くのを忘れていたことに気付いた。


 ──また今度でいいか!!


<魔の森>


 始めに炎を出しておいて、無属性魔法で少しずつ酸素を錬成する。この前は一気に錬成しすぎた。


 徐々に酸素を錬成しているが、それに触れた炎は激しく暴れ出した。


「くそ!」


 ハルは苦戦しながらもなんとか炎が青色へと変化させることに成功する。激しかった赤い炎が青色になった途端に静かに燃え出した。ハルの瞳に青く輝く美しい炎が反射する。


 それを目の前にある大きな岩めがけて放った。


「ヴァーンストライク!」


 掌から青の炎が一直線に岩へ向かった。大地を穿ちながら青い残像を辺りに残す。


 巨大な岩は炎に触れる直前に融解し始め、粘性を帯びるがその状態変化が岩全体に行われるよりも早く炎の塊が直接ぶつかる。巨石は激しい音を伴って跡形もなくなり、岩を破壊したあとも炎は直進し続けた。


「でき……」


 ガクッと膝から崩れ落ちるハル。


MP 0/90

SP 8/115


ピコン

第四階級火属性魔法

『ヴァーンストライク』を習得しました。


 ハルは気を失う寸前にあの機械音が聞こえてきた。


ゴーン ゴーン


 路地裏へと戻ってしまった。


MP、SP、魔力が1上がった。


~ハルが異世界召喚されてから1日目~


 ──ん~あの魔法…かなり凄いけど、この前倒れた程の威力じゃないんだよな……あれはやっぱり第五階級魔法なのかも……


<図書館>


「第五階級の火属性魔法?それはもうフレアバーストよ!私の大好きな魔法なの!」


 フレデリカは指をたてて無邪気で得意気な表情をみせた。


「えっと…どんな魔法なんですか?」


「炎が竜のような型をしていて対象物に当たると爆散して全てを焼き付くすのよ!」


 あ~あれ堪んないのよねぇと両頬に両手を当てて悶々としているフレデリカ。


 可愛い仕草の割りに言ってることがえげつない。なんでもフレデリカのお気に入りの冒険譚にでてくる英雄ミストフェリーズがよく唱えるんだそうだ。


 ──あぁだからイングリッドさん?あのエルフの女性は竜を見たか聞いていたのか……でもこれ試そうとすると魔力欠乏は必至だな。もっとレベル上がってからにしよう!今日はちゃんとルナさんと出会わなければ!


<路地裏>


 ハルは日が沈んだと同時にいつもの路地裏へ着いた。


 コツコツと暗闇から足音が聞こえる。


 ──来た!?


 暗闇を凝視すると、現れたのは酔っ払いのおっさんだ。


「あっ!そうだったお前だった!」


 いつものように酒瓶で殴られる。ルナが来るまでこれをやられなくてはならない。


 ルナが到着したのを確認したハルはファイアーボールを上空に撃ったが、


 火球はまるで柱のようにして建物と建物の間を埋め尽くした。


「なっ!?」

「げっ!?」


 ハルと酔っ払いはそれぞれ反応する。そのあと直ぐに酔っ払いの親父は退散した。


 ファイアーボールを撃つつもりが第四階級魔法を習得したことにより威力の桁が上がっている。


 ──これじゃあ、さながら……


「フレイム?」

 

 ルナは呟いた。

 

 路地裏の暗闇に突如現れた炎の柱にルナの顔は照らされる。しかし気を取られているのは一瞬だ。ルナはハルの手を引いてこの場をあとにした。


 同時に、紫色のドレスを着た女は打ち上がっているファイアーボールを見て思った。


 ──ぁん♡素敵なファイアーボール…それに……


 女はルナに手を引かれて人通りを目指して走っているハルに向かってスキル、鑑定Ⅲを使用した。艶かしい両眼が怪しげに光る。


【名 前】 ハル・ミナミノ

【年 齢】 17

【レベル】  8

【HP】  93/93

【MP】  91/91

【SP】 116/116

【筋 力】 58

【耐久力】 75 

【魔 力】 79

【抵抗力】 74

【敏 捷】 71

【洞 察】 74

【知 力】 931

【幸 運】 15

【経験値】 100/900


・スキル

『自然の摂理』『感性の言語化』『第四階級火属性魔法耐性(中)』『第三階級火属性魔法耐性(強)』『第二階級以下火属性魔法無効化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』


・魔法習得

  第一階級火属性魔法

   ファイアーボール

   ファイアーウォール

  第四階級火属性魔法

   ヴァーンストライク

 

  第一階級水属性魔法

   ウォーター


  第一階級風属性魔法

   ウィンドカッター


  無属性魔法

   錬成


 ──嗚呼…なんて素敵なの……


 女はルナを殺害する素振りもみせず静かに姿を消した。


~ハルが異世界召喚されてから2日目~


 私エミリオは魔法学校の第二階級風属性魔法演習の講師をしている。もうここへ教鞭を執って3年になるが今でも自分が受験生だった頃を思い出す。特に思い出深いのは実技試験だ。


 入念に準備をしてきた。しかし幼なじみの友人は魔剤を飲んでいた。私は魔剤等に頼りたくなかった。しかし、蓋を開けてみればその友人はAクラスに、私はBクラスに合格した。


 そして現在、私は入学試験の試験官をしている。


 魔剤を飲んでる受験生をなるべくAクラスに受からせたくない。そして本当に才能ある受験生、身分など関係なくAクラスに入れてあげたい。そう願っていた。


 緊張で魔法が出ない者、魔法を飛ばせない者がいる。


 ──さぁこのグループはどうだ?


 私は受験生の情報が記載されている紙をめくり、その書類上の受験生と、今実技試験を受けようとしている受験生を一致させた。


 一際目立つのはレイ・ブラッドベルだ。


 ──後のみんなも貴族出身か?……ん?この子は孤児か……


 最初の受験生が魔法を唱えた。


 的に当たる。


 私は直ぐにその受験生にチェックを入れる。何故なら魔力を練り上げるときに、不自然な揺らめきを感じとったからだ。 


 ──魔剤を飲んでいるなこの子…それになんか凄い悪そうな顔してるし…Aクラスには入れたくない……


 気を取り直して、次の受験生を観察する。ズレ下がった眼鏡をエミリオはかけ直す。


 ──レイ・ブラッドベルか……


 レイの周りを光の玉が無数に浮遊する。そして光の玉は散らばり、すべての的にヒットした。


 ──なっ!!流石ブラッドベル家…首席間違いなしだ。


 そして最後は、


 書類をめくり上げる。受験生の情報に目を通して名前を確認した。


 ──ハル・ミナミノ……


 再び彼を見やった時、一瞬閃光が彼から発せられたと感じた。そこから瞬きする間もなく受験生ハル・ミナミノは魔法を唱えた。


「ファイアーボール」


 掌から赤く輝く矢のように鋭いファイアーボールが的目掛けて飛んでいく。


 空中を一直線に向かっているにもかかわらず地面に亀裂を生じさせるほどの威力がそれにはあった。


 そして、的へ命中する。


 的は炎に包まれ、消失した。


 ──なんだ!?あの威力!!…的が消失するなんてありえるのか!?


 驚きすぎて瞳孔が開く。そして声がでない。


 私は咄嗟にもう一人のベテラン試験官デーブの顔を見た。同じように驚いていたが直ぐに彼は気をとりなおしていた。ベテラン試験官とは言うものの彼は歳のとった只の頭でっかちに過ぎない。


 デーブはハル・ミナミノに質問する。


「孤児であるか?」


 ──ホラ、生まれなんて関係ないのにあんなこと訊いて…そんでもって、ファイアーボールなら的に二つ当てなきゃダメだとか言い出すんだ……なぁデーブ?見ただろあの威力と速さを?

くそぉ……僕にもっと権力があればミナミノくん…君をAクラスの首席に据えるのに……


 エミリオがハルの魔法にあてられている一方で、レイも目を見張っていた。兄レナード、父レオナルドの恐ろしく早いシューティングアローを子供の時から見ていた。


 ファイアーボールとシューティングアローはファイアーボールの方が威力は高いがスピードはシューティングアローの方が速い。


 こんな相関関係がこの二つの魔法にはある。


 シューティングアローを無数に唱えることによってファイアーボール並みの威力を発揮させる。これが繁栄したブラッドベル家の基本的な考えだ。


 しかし、ハル・ミナミノの唱えたファイアーボールは父の唱えるシューティングアローよりも早く威力は自分の知っているファイアーボールのそれよりもかなり高い。


 ──そんなこと俺じゃなきゃわからんだろうが……


 レイは横目でハルを見た。


 ──コイツと戦ってみたい……


─────────────────────


 実技試験を終え、受験生の合否に関する会議が開かれた。


 エミリオは叫ぶ。


「どうして!彼がBクラスなんですか!?」


 珍しく激怒するエミリオ。その光景を見て他の教師達は驚く。


「落ち着きたまえエミリオ君。ファイアーボールは二つの的を同時に唱えるくらいしないとAクラスには入れない決まりじゃないか?」


 デーブがハルを見下しているようなそんな言い方をする。


「ファイアーボールって!!?あれが只のファイアーボールだと思うんですか?私が今まで見た中で最強のファイアーボールですよ!!?それにあの的を焼き壊したじゃないですか!?」


 デーブはその重たそうな瞼の奥にある目をエミリオに向けて言った。


「む~あれは歴代の生徒、それに先生達も授業で使っていたモノだ。だからたまたまあの孤児が唱えた魔法で燃えてしまっただけだよ?もうあの的を新しいのにしませんか?」


 ──うっ……


 論理的に返せる言葉が見付からない。エミリオは諦めた。


 ──すまない…ミナミノ少年……


 エミリオは拳を強く握り締めた。


 合否に関する会議が終わり、部屋を出て廊下をトボトボ歩いているエミリオに後ろからスタンが話し掛けてきた。


「そんなに凄かったんですか?そのファイアーボール?」


 スタンは第二階級火属性魔法演習の先生だ。


 ──成る程、興味が湧かないわけないか!


「それが驚きましたよ!シューティングアローかと思ったくらいの速度だったんですから!それに……」


 エミリオは無駄だとわかっていたが受験生ハルのプレゼンテーションをするかのように説明した。


「フム……」


 説明を聞き終えたスタンは何やら考え込むとその場を去った。


 試験で使われた的を見に行くスタン。


 地面に刻まれた亀裂を辿り、的を見上げる。


 確かに的は所々痛んでいるが、第一階級魔法程度で壊れることはない。


「ハル・ミナミノ…一応警戒だけはしておくか」

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