第22話

~ハルが異世界召喚されてから4日目~


 遂に来た。今日が本番だ。


 1時限目は魔法歴史学ではなく歴史学をとった。王国と帝国の成り立ちを学ぶ。しかしこれも図書館で読んだ内容とあまり変わらなかった。


 2時限目は第二階級火属性魔法の演習。アレックスとマリアとは手を振って挨拶をした。その程度の挨拶なのにラースは食いついてきた。


「キャァァァァ」


 アレックスの掌から火が吹き出している。逃げるスタン。アレックスの嵌めている腕輪が綺麗に光っていたのが印象に残った。


 早く第二階級魔法を習得したいのだが、MP消費を抑えてハルは授業を真面目に受けなかった。


「どうしたミナミノ?体調悪いのか?」


 ──ごめんスタン先生。


 既に幾度も彼に心配されてきた。戻る切っ掛けをくれた。この襲撃を、ルナを救うことができれば、必ず真面目に授業を受けることをハルは誓った。


 そして待ちに待ったBクラス必修の神学の授業だ。


 ──この日の為に準備してきたんだ……


 ハルは両腕に魔力を走らせた。そのせいで前髪がふわりと舞う。


─────────────────────


 ──この日の為に準備してきた。帝国の繁栄の為に…いや、私のレベルのために……


 黒いローブを着たロンウェイは、同胞達と別れを告げ足早に一年生のBクラスの教室へと向かった。


 既に準備は完了していた。後はなるべく時間を稼いで、学校を混乱に落とし入れる。学校長のアマデウスがいない時、そして外から邪魔が入らないよう手筈は整えてある。


 真の目的であるルナ・エクステリアの暗殺を遂行する。だがそれは彼にとってはただの建前だ。レベルが上がればそれで良い。


 ──そして私は運がいい。


 何故なら1年生のBクラスを襲撃するからだ、他の学年やクラスはまずその教室で授業をしている教師を倒さなければならない。しかし私が襲撃するクラスは神学の授業。司祭を葬ることなど造作もない。このことを運が良いという者は私ぐらいかもしれない。同胞達、いや脳筋達は強者だからこそいいと考える者が殆どであろう。彼等からすれば私の担当する一年生のBクラスは寧ろ外れ枠だ。


 しかし、彼等は魔法学校の教師と生徒達を嘗めすぎている。彼等は私と同程度の強さですが、教師と生徒を相手にするならば今のレベルよりも2、3は高くないと返り討ちにあう恐れがある。


 Bクラスといえど、80人いる生徒達が互いに殺し合い、レベルをそれなりに上げてくれれば……


「要はやり方次第なのですよ……」


 司祭を殺したあとロンウェイはゆっくり教室に入っていく。生徒達が無警戒でいてくれれば一番見渡しのいいところで殺戮を演出できる。


 ロンウェイは教室の階段を下り、教壇を目指す。


 ──ふぅ…やはり司祭如きではレベルが上がりませんでしたね。ククク…生徒同士で殺し合いをさせ、生き残った生徒を私が倒せば私のレベルが上がる…なんて完璧な作戦!


 教室の底へ着き、教壇の前に立った。そして生徒たちを見渡し、用意していた台詞を言おうとしたその時、


「ファイアーボール!」


「なに!?」


 強力なファイアーボールが猛スピードで迫って来ていた。ロンウェイは咄嗟に上空に回避したが、


「ぐわっ!右足がぁ…!!」


 ロンウェイは狼狽する。


 ──なんなんですか!?この威力は!!


 空中でファイアーボールを唱えた少年を見やる。視線が合うと、ロンウェイは更に狼狽える。


「なんですってぇ!!」


 先程のファイアーボールが彼を追い掛けるようにして上空へ舞い上がる。


 火球はロンウェイの下半身から上半身に向かって焼き付くす。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 炎の中で痛みに喘ぐロンウェイが見た最後の光景は、まだ年端もいかぬ少年の冷たい表情だった。


 ラースは事態を飲み込めないでいる。友達のハルが急に神学の先生を攻撃したからだ。あまりに一瞬の出来事だった為、誰も何も言えなかった。


 先生がハルの唱えたファイアーボールを飛び上がって避けたと思ったらそのファイアーボールは先生を追尾し焼き付くした。


 ハルの表情がとても恐ろしかった。


 ハルは先生を葬った後、席を立ち教室から出ていこうとする。ラースは力なくハルに手を伸ばし引き留めようとしたが止めることは出来なかった。


 ハルは教室から出ていった。


ピコン

レベルが上がりました。


 ハルの頭の中から声が聞こえる。


【名 前】 ハル・ミナミノ

【年 齢】 17

【レベル】  8

【HP】   90/90

【MP】  86/86

【SP】   111/111

【筋 力】 57

【耐久力】 75 

【魔 力】 74

【抵抗力】 70

【敏 捷】 71

【洞 察】 74

【知 力】 931

【幸 運】 15

【経験値】 100/900


・スキル 

『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』『感性の言語化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』


・魔法習得

  第一階級火属性魔法

   ファイアーボール

   ファイアーウォール


  第一階級水属性魔法

   ウォーター


  第一階級風属性魔法

   ウィンドカッター


 ハルはAクラスの教室へと走った。


 ──レベルがただ上がっただけじゃ戻らないのか……


 向かっている最中に、爆発音が轟く。

 

「急がなくちゃ!!」


─────────────────────



「はぁ……つらい…今日は折角会えたのに…手をふっただけとか……」


 アレックスは2時限目の授業を思い出していた。


 ──ちょっとハルに良いとこ見てもらおうと思ったのに…失敗しちゃうし…はぁ……


「フフッさっきから溜め息ばかりだねアレックス?」


 最後の溜め息は声に出てしまっていたようだ。


「なにぃ~面白がってぇ!!」


 アレックスはマリアの胸を揉む。


「ちょっと!!!」


 先生が教室に入ってきた。みたことのないスキンヘッドの男だ。


「よぉ!お前ら!これから俺と遊ぼうぜ!」


 アレックスは面白そうな先生だと一瞬思ったが、先生の顔面がキラリと光ると爆発が起こる。


 ──え?


 困惑するアレックス。隣にいるマリアが後ろを向きながら呟いた。


「レイ?」


 アレックスはマリアにつられて後ろを振り向く。レイの表情が曇って見えた。すると、爆発した筈の先生の声がする。


「おいおい、いきなりそりゃないぜ」


 アレックスは再び前へ向き直った。爆煙が漂う中、顔面が爆発した先生は無事なようだった。


「お前がブラットベル家か」


 未だに事態が飲み込めないアレックスと他の生徒たちを尻目に、レイと先生は戦闘体勢に入る。


「フン!!」


 男は何か気合いを入れるかのような掛け声をかけた。これはアレックスもよく使う拳技による身体強化だ。


 レイが先程の第一階級光属性魔法、シューティングアローを再び放つ。アレックスの目で追うのがやっとの速度で直進するレイの魔法を男は見極め、それを裏拳で弾いた。弾かれた魔法はそのまま教室のドアを破壊する。


 再び大きな爆発音が轟いた。


 男は破壊されたドアを見た後、ニヤリとしてレイを見たがそこにレイの姿はなかった。


「!?」


 先程破壊されたドアの爆煙から剣技による身体強化を済ませたレイが高速で男に上段蹴りをくらわせ、男は窓側の壁へと吹っ飛び激突した。


「今のは効いたぜ…」


 男が膝に手をあてながら立ち上がるとおもむろに右手をあさっての方角へ向けた。


「なんのつもりだ?」


 レイは嫌な予感がしつつ質問した。男はニヤリと笑うと魔法を放つ。


「ファイアーボール!」


「な!?避けろ!!」


「え?」


 事態を見守っていた女子生徒クライネにファイアーボールが飛んでくる。咄嗟のことに魔法防御もできない。


 すると、教室の入り口から声が聞こえた。


「ファイアーボール!」


 高速のファイアーボールがクライネに向かうファイアーボールに直撃し、打ち消された。


「な!?」

「に!?」


 レイとスキンヘッドの男は魔法の出所を見た。


 レイは思う。


 ──アイツか!?試験で一緒だった…… 


 レイは実技試験でハルの撃ったファイアーボールを思い出していた。


 ──あれは全力ではなかったのか……


 スキンヘッドの男は新たに現れた生徒を観察する。


 ──なんだあれ?シューティングアロー並みに早かったぞ?…ったくブラッドベルのガキといい、このガキといい……


「ハル~!」

「ハル君?」


 アレックスは歓喜の声を上げる。マリアはまだ状況が把握できていない様子だ。


 そんな中、ハルはスキンヘッドの男に向けて唱える。


「ファイアーボール!」


 ハルの掌から赤い魔法陣が出現すると、アレックスは教室内にフワリとした風を感じた。かと思えば、


 ハルの掌からシューティングアローのような白く輝く火の玉が放たれる。


「くっ!」


 スキンヘッドの男はそのファイアーボールを避けきれないと瞬時に判断し、全身に魔力を込めて防御した。


 ファイアーボールがヒットする。


「ぐぉぉぉぉぉ」


 防御のかいあってか、男は皮膚を少し焦がし、身体の所々に煙が立つだけですんだかのように見えたが、ガクっと体勢を崩した。


 ──速いだけじゃねぇ、なんて威力してやがる……


 レイはその隙に光の剣を出し男に襲い掛かった。


「チィッ!」


 男は下段から斬り上げられた光の剣をなんとか鼻先を掠め、躱す。しかし、レイが刺突の構えをして男は絶望した。先程のファイアーボールの魔法防御で魔力を殆ど使い果たしてしまい、レイの光の剣を受けきることは難しいと直感したのだ。


 ──かといってこの体勢で避けることもかなわない……ならば!!


 男はすべての魔力を使いきる勢いで両腕に魔力を込める。眼前に迫る光の剣を受けた。


 男の太い腕を貫きながら、光の剣は男の胸部へと到達し、押し込まれた。尖端が男の背中から顔を出す。


「ぐぼぉぉぁぉぉぉ」


 その光景を見たハルは直ぐ様Aクラスの教室を去り、駆け出した。


「待て!」


 レイは去っていくハルの後ろ姿を見て言ったが、その声は虚しく室内に響いただけだった。


【名 前】 ハル・ミナミノ

【年 齢】 17

【レベル】  8

【HP】   90/90

【MP】  70/86

【SP】   111/111

【筋 力】 57

【耐久力】 75 

【魔 力】 74

【抵抗力】 70

【敏 捷】 71

【洞 察】 74

【知 力】 931

【幸 運】 15

【経験値】 100/900


・スキル 

『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』『感性の言語化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』


・魔法習得

  第一階級火属性魔法

   ファイアーボール

   ファイアーウォール


  第一階級水属性魔法

   ウォーター


  第一階級風属性魔法

   ウィンドカッター

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