毛布をかけて泣かせてあげてね

@kurubushixx

終わりと始まりの優しい週末


 せや、お前の言う通りやで、とそれっぽく笑ってみた。

 私の肯定にくしゃりと顔を歪めた加瀬はしばらくして、ようやく咀嚼するかのように頷く。

 苦し紛れに「帰るんですか」と聞こえた言葉に今度こそどんな顔して良いか分からなくて、痛いぐらいの西日に目を細めた。


「私はずっと好きですよ、ナツさんのこと。これからも好きです。何年でも余裕で待てますから。」

「ずっとなんてわからへんよ。この先お前、私以上に大切やと思える人を見つけて結婚するかもしれへんし。子どもだって出来てそりゃもう大層可愛がるかもしれん。そんな一時の感情で、しかも同姓。」

「ごめんなさい。それでもわかるんです。やって、好きやから。」


 ずっと分かっていたことではないか。加瀬が私を好きになることなんて。


 どんな時も加瀬が私に好きという溢す表情は痛くて、見てられなかった。

 もといたあの加瀬から逃げたくなって飛んだというのに何度やっても堂々巡りで変わりやしなかった。

 親友に愛を謳っていた中学生の私は、あんなに名前を呼ぶだけで幸せになる感情こそ恋する醍醐味だとばかり思っていたのに、何度試しても加瀬の言う好きとはどうしても相容れなく動揺する。

 それは私の積み上げてきた感情のプロセスを根っこから否定されているようで受け入れるわけにはいかなかった。


 いつものようにひとりがしんどくて、いつもみたいにバーで拾うのもめんどくさかった日にちょっぴりかまけたのが悪かった。こうも心乱されるとは思ってもみなかったというのに。今じゃ何度飛んだって結局はこうなってしまうのだから、もう、本当にどうしていいか分からない。

 

 それだけ真奈美はなっちゃんのこと好きなのねえ、といつの日だかぼやいた親友を思い出したら、鼻の奥がつうんとして、息がひっかかって、そうして少しだけ視界が呆けた。


「ほなな。」


 掠れた声で手を振れば、ついに加瀬はまんまるい涙をほろりと落とした。そのあんまりにも可愛らしい呼吸を最後にタイムリミットが来て、いつもみたく酷い倦怠感に襲われる。もったりと目を閉じれば、次に目を開けたときには既に先ほどの幼い加瀬はいなくて、代わりに少しやつれた寂しい人の両腕に包まれて身動きが出来なくなっていた。

 鼓膜に悪いぐらいのリズムで押し当てられる鼓動と少し汗ばんだ体臭がなんだか無性に切なくて掻き立てられる。それが何よりの証拠で、みっともないがままにしがみつけば、はっと息を呑む加瀬に私まで泣きそうになった。


「…、先輩、おかえりなさい」

「今日も待ってたんだ。……ただいま」


「何度だってどの時代も世界の私も回り回ってナツ先輩に恋しますよ。でも、まさか報われるなんて、思ってなかったから、え、うそ、どうしよだって、今ただいまって、」






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