2 エッセイらしさの要素「語り手」

この調子で書くと全話レビューすることになりかねないと危惧しつつ、

 

【逃げ道】SFPエッセイ002

https://kakuyomu.jp/works/1177354054892340431/episodes/1177354054892354637

 

を取り上げます。例によって読んでいることを前提で書くので、未読の方はいまのちにどうぞ。

 

Facebookで初出時に「なんだ。本当に道場を開いているのかと思った。高階さんならやりかねない」というようなコメントをもらってほくそ笑んだことを思い出します。


確か最初の数作品ではタイトルの後ろの「SFPエッセイ002」のようなクレジットを入れていなかったため、他の投稿と区別がつかなかったという事情もあります。続く数作品についても同様なコメントが入ったため、さすがにまずいと思い、SFPエッセイ作品であることを明示するようになりました。

 

文末まで読めば


 (「【逃げ道】」ordered by 関根 淳子-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro

   a.k.a.hiro)

  ※注意:このエッセイはフィクションであり、 実在の人物・団体・事件・

   武道・道場などとは一切関係ありません。


のようにクレジットを入れているので、虚実ないまぜで読んでもらって文末で初めて確認するというスタイルが、本来は理想的なのだが、立て続けにそういうコメントが入ったことで「さすがにこのままでは趣味が悪い」と考え直したという経緯があります。それでも本心では、SFPエッセイであるかどうかを事前に明かすのは無粋なことだと考えています。このあたりは書き手の判断に任せますが、人を騙す形になるのはよくないので、虚構エッセイであることをどこかに明示する必要はあります。それは守っていただきたいと強くお願いします。

 

さて作品の内容について。

 

【逃げ道】というお題をもらって、割とすぐに「柔道」「剣道」のような「道」の話にしようと思いつき、「逃げ道」の道場について書き始めました。これは設定が先にあって、その道場を12年前に開いたと書いたのは実はSudden Fiction Projectの開始からそれくらいの年数が経っていたからという単純な理由でした。

 

そこそこ長いつもりで「12年」と書いたものの、剣道の道場などは江戸時代から盛んなわけで、そう考えるとさほど長くないし、そういう諸先輩の中ではひよっこ扱いされるんだろうなと気づいたので、他人にひよっこ呼ばわりされる屈折した感情を書きつけました。

 

このあたりから「語り手」の像が浮かび上がってきます。権威をかさにきた者に反発する修行の足らない道場主。そして教えているのは「逃げ道」だという。それは何か。

 

この作品で念頭においていたのは、内田樹氏の凱風館で、「逃げ道」の解説に書いたこともほぼ内田樹氏の「無敵」関する解説がベースになっています。ベースどころか、ほぼそのまんまなので、さすがに自分で思いついたふりをするのは恥ずかしいと考え、“合気道初夏微風流の開祖・田鶴打太師の言葉”と書くことで、わかる人にはわかるようにしたわけです。

 

でもこれでは合気道の解説であって、まだ「逃げ道」という道が何なのかは示されていません。そこでここから理屈をこねにこねて、「戦いの場において勝ち負けを無効にする道」を導き出したわけです。

 

第2作目にしてエッセイらしい作品を書けました。でも実際にはこの後もしばらくは手探り状態が続きます。今から振り返るとこの作品がエッセイらしく読める理由としては

・具体的な語り手の存在がキャラクター像を含めてわかる。

・その語り手が自分の個人的な体験や考え方を語っている。

・ご丁寧にオチでは大上段の思想のようなものと卑近な悩みも語っている。

などの点が挙げられます。

 

特にオチの一文などは偉そうな「逃げ道」論だけで終わらせず、案外しょうもないことで悩んでいる姿勢によって、親しみを演出するなど、姑息な書きっぷりがいかにもエッセイ感を漂わせていてくすりとさせます。ぜひ最後の一文まで味わってやってください。

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