第5話

絆創膏を貼る程痛みはなくなったが、指紋が切れていた。きっと跡が残ってしまうだろう。

目を擦った。どうやら睫毛が入ったらしい。取れる頃には涙が数滴出ていた。


開いた窓から風が入る。雲が空の色を吸込んでいる。夕焼けを閉じこめている。


この一瞬を1枚に出来たならどれだけの物になるのだろう。繊細で美しく見せることが出来るのだろうか。それとも案外、味気ない物になってしまうのかもしれない。


遠くでカラスが飛んでいる。眺める私なんか知らないんだろうけど。


カーテンが大きく揺らぎ、花瓶を倒した。寄ってみると、どうやら割れてはいないようだったが水が零れてしまっていた。花は無事なようで鮮やかな白とオレンジ色が咲いていた。この花の名前をどこかで聞いた。


「ラナンキュラス。」

「ん?」

「ラナンキュラス、その花の名前。」


後ろには彼が立っていた。


「心でも読んだの?」

「さぁ、どうだろう?」


彼は花を拾い上げた。


「白とオレンジか。」


彼はじっとそれを見つめていた。


「水を拭くの手伝って貰ってもいい?」

「水なんかどうにでもなるさ。」


彼は指をパチンと鳴らした。すると水は元からなかったかのように床は乾いていた。花瓶の中には水が入っていた。


「魔法でも使ってるの?」

「さぁね。まぁ君にはわからなくていいことだよ。」


彼は花を花瓶に戻した。


「よく、花の名前知ってたね。」

「聞いたことがあったんだよ。」


彼は笑った。私の言葉では表せないような顔で。


「私、花言葉を聞いたことがある気がする。」

「花言葉?知らないな。」

「確かね、花言葉は花によっても違うし、その色によっても変わるの。」


あの花の言葉、私は確かに覚えていた。


「白は××××××でね、オレンジは××××××だよ。」


花弁が揺れ動き、その1枚が宙を舞った。

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少女少年 Joe @octopus666

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