case.2-3 殺意のジグソーパズル
非行集団『バスターピース』。七支署管轄内の喰入地区周辺、奥喰入、密嶋、也鏝近辺を活動範囲とする、手広く悪さをする非行集団だ。構成員はほぼ未成年であるため、捕まえても程なくして釈放されることとなり、集団の瓦解には至っていない。
奴らの根城、万雷ボウリング場跡地周辺の、コンビニの防犯カメラに映っていた複数人の影を追い、さらに複数の防犯カメラを追いかけて第二の根城を突き止めた。くたびれたソファにふんぞり返っていた『バスターピース』のナンバー2、稲架倉春一を逮捕。罪状は首藤夜桜庭園の桜を損壊したことによる器物破損。
そして、もちろん。余罪を追求することになる。
「はぁ!? 女を殺しただぁ? 知らねぇよ」
取り調べ室に稲架倉と刑事二人。三人が入る部屋としては狭い。刑事は稲架倉を威圧し、精神的に追い込もうとする。決して和やかな雰囲気ではない。
たとえ取り調べを録画をされていようと、相手は犯罪者であり、糺すべき未成年だ。
彼もまたこの異質な空間に精神を負けないように必死なのかはわからないが、刑事二人の威圧に気圧されないようにふるまっていた。それかただの鈍感か。
「
死んでいた。と言った。
殺されていた。とは言っていない。
まだ殺人かどうかは分かっていなかったが、捜査一課の刑事が取調室で死んだ女を知らないか?と問えばそれは、誰もが『お前が殺したんじゃないか?』
と問われているのだと錯覚するだろう。
現時点で荒暮ができる捜査権限では、この程度の言葉遊びが必要だった。未成年の取調べは録音と撮影がセットになっている。下手なことはできない。
「4月19日の夜はどこにいた?」
「さぁな。覚えてねぇよ」
「不揃井は今どこにいるんだ?」
「さぁな。覚えてねぇよ」
机を叩く。派手な音が鳴る。叩いた手の形に机が凹んだ。
突き抜ける音は、仕切り直しの合図だ。
少し、取り調べ室の空気を味わわせてやるか。
『バスターピース』のリーダー。不揃井吾郎は今も行方をくらましている。防犯カメラの映像にも一度も姿を見せなかった。
どこか他県に逃げたか? しかし、このチームは仲間意識が強い。未成年で、家族とうまくいってない子供たちがつるんでいる為、チームを『本当の家族』だと慕っていると聞く。そんなある意味自分の兄弟たちを置いて、遠くに逃げるだろうか。
そしてもう一つ。
あのキレイな女性の死に顔。服にシワひとつ残っていなかった。足跡の件も然り。粗暴な連中の犯行と見るにはピンと来ない。犯人像はもう少し冷静で、慎重で、女性への配慮を感じる。
とすると、この少年たちはあの事件には無関係なのではないか、と荒暮は感じ始めていた。
しかし、だとするとリーダーはどうして行方をくらましている?
庭園にチームサインを残していることから、桜損壊事件については隠蔽や逃走を考えてはいないだろう。自己顕示欲が見受けられる。ともすれば、警察から逃げずに「あぁ、やってやったぜ」と得意げに笑うくらいの話である。
女性の死に桜損壊事件が無関係で、なおかつ、桜損壊事件に不揃井の失踪が無関係だとしよう。
だが、女性の死と不揃井の失踪が無関係、とはならない。
何か。
まだ何かピースが足りない気がしていた。
だが、これ以上何か起こるのを期待する訳には行かない。
まだ聞きそびれている何かがある。
まだ調べていない何かがある。
不揃井の足取りを追う。その範囲を少し広げよう。
荒暮は、先日の夜桜庭園での捜査メモを見返した。
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