case.1-2 殺意の使い道
あーあ、いつか何かやらかすんじゃないかと思っていたけれど、まさか人を殺すとはなー。
バイトの休憩中、先輩は何か思い立ったかのように外へ出た。
1時間しかない休憩、タバコも吸わない先輩が外に出るなんて、何かあるのかなぁ、彼女でもいるのかなぁ、どんな顔してんのかなぁ、と気になったので、俺の方が休憩30分多かったし、なんとなく先輩の後を追ったら、公園に行き、人を階段の下へ突き落としてた。
ドラマかな、何かの撮影かな、とカメラを探したけど、そんな気配はない。
まじかよ。
知り合いだったのかな。何か、動画を撮影しているようだったけれど。
その後先輩は何もなかったかのように、バイト場の方へ帰っていった。こえー。
俺は俺で突き落された人の方へ歩いて行った。生きてるかなーと思ったけど、首がありえない方向に曲がっていたから、救急車を呼ぼうという考えにはならなかった。目が合わないでよかった。目が合っていたらきっと、さすがの俺でも絶叫していたと思う。
突き落される数秒前、死んだこの人は、「殺意がどうのこうの」って話をしていた。殺意をどう有効活用するか、みたいな? でもさ、殺意を有効活用つったって、あんたが殺されてたら世話ないじゃん?笑
自分の殺意は操れるのかもしれないけれど、他人の殺意は操ることはできないんだって。他人の殺意は自分の命を保証してはくれない。自分の言葉が他人に与える影響を、この人は考えられなかったってことだな。
さて、ちょっとおもしろいことを考えた。考えたからには実行しないともったいないって話だよな。思い立ったが吉日。今直ちに行動せよ。
という指示の元、ちょこっと現場に手を加えてから、俺もバイト場に戻った。
ここで誰かに目撃されようものなら、この誰かも分からない人を殺したのが俺ってことにされてしまう。それはなかなか、笑えない話だ。
休憩も終わり、仕事に戻る。仕事に戻った後も、俺はさっき実行に移したおもしろいこと、その先を考える。
俺が先輩の事件を乗っ取るんだ。ただし、俺自身につながる証拠は残さない。
先輩は階段に落としたあの男みたいに、近いうちにバイト場のあの人を殺す気だろうなぁ。手に取るようにわかる。
だから、先輩を尾行して、その現場にまたひとつ間違った証拠を残す。
さっき、階段の下の首の折れたあの人の傍に置いたのと同じものを。
その事件を起こしたのは俺だって
もちろん、犯人は俺じゃない。けど、世間はまるで犯行声明文のように受け取るだろう。
しかし、本質はそうじゃない。そのメッセージは、本当に届けたい人の耳にきっと届く。
その証拠は人々の中で拡散し、量産される。殺意を発端として、じわじわと侵食していく。
殺意は伝染する。もともと誰の心にも存在するものだから。
その殺意は人々の中で蔓延し、爆発する。その起爆をしたのは他ならぬ俺なのだ。
その手の中で温められた殺意が芽生え、花開くのを、あとは俺は遠くで見ているだけでいい。何もしなくてもその殺意は必ず爆発する。
情報社会の今、それは勝手に俺の耳にも届く。後は高みの見物だ。二度と止まりはしない。殺意がなくなることはない。
これが本当の殺意の有効活用ってやつだ。
それこそが俺のこの――――
――っ!!!
…………。
え?
暗闇の幕が下りたのを感じた。
◆
渋夜区の路上にて殺人事件が発生しました。
被害者は――さん。信号待ちをしている際、背中から突き飛ばされ、走行中のバイクに衝突し、病院に搬送されましたが、後程死亡が確認されました。また、衝突したバイクを運転していた――さんも打ちどころが悪く重体、その後死亡したとのことです。
――さんを背中から突き飛ばしたとして現行犯逮捕されたのは、――。殺された――さんと、バイクを運転していた――さん、――容疑者とは同じ飲食店でアルバイトをしている同僚だということで、警察は殺人事件だとして調べています。
また、現場からはあるメッセージが発見され、そのメッセージがさきほど起こったもう一つの事件、人気動画投稿者殺人事件で現場から見つかったものと同じものだと推定され、警察は二つの事件の因果関係を調べているとのことです。
それでは、次のニュースです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます