5
「おはよう」
「おは……、あ!?」
翌朝。新入社員の男があからさまに『こいつ生きてやがる!』という顔をしたので、俺は彼に近づいて言った。
「昨日は怒鳴って悪かったな」
「え……いや……その……」
「ところで、豆腐は好き?」
「はい?」
俺はゆっくりと口にする。
「豆腐だよ。と、う、ふ」
「え、ええ……まあ」
「絹と木綿ならどっち?」
彼は『こいつ地獄に落ちて気が触れたか!』という顔をしつつも返答した。
「絹……ですかね」
「どれくらい好き? 永遠に食べれるくらい?」
「は、はぁ……?」
面倒になったので、俺は率直にきいた。
「地獄に落ちたいか?」
「ひいいぃ!」
地獄と言うなり、彼はへっぴり腰で走り去っていった。途中で、尻のポケットから黒い物体を落としたが、そのまま行ってしまった。
見ると、それはスマートフォンだった。
勝手に画面をつける。肌の露出が多い二次元の少女のイラストが表示され、下の方に『うニャー☆ お仕事頑張ってるかニャあ? ミウたんは寂しがり屋だから、たまにはお返事してほしいニャん☆ 絶対だニャん☆』と丸いフォントで書かれていた。
「まじか…………」
スマートフォンを手に新入社員の足取りを追うと、男子トイレの隅にうずくまって震えていた。
「あのー」
「ひいぃごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいい」
「今度うちに遊びに来ない?」
彼はぽかん、とした顔をする。
俺はスマートフォンの画面を見せながら言った。
「このゲームのプレ4版、俺もってるから、やりに来ない?」
「……、先輩も『カレ☆ぴ』なんですか?」
「うん」
「『なかよぴ☆レベル』はいくつですか?」
「二八九」
「行きます!」
俺たちはがっしりと握手をした。
そのまま彼を立ち上がらせて、俺はささやいた。
「俺が『カレ☆ぴ』だってことばらしたら、地獄に落とすからな」
「はうっ……。すみません、ほんと、許してください……」
「許すからばらすなよ」
首が外れるのではと思うくらい、彼はこくこくこくこくと頷いた。その直後、彼の身体からおぞましい量の針金が解き放たれて、すぐに消えた。俺にしか見えていないようだった。
「行こう」
「は、はい!」
怨嗟は断ち切れたらしい。
具体的な約束の日にちを決め、俺たちは仕事に戻った。
終
ドロップ・トゥ・ヘル・サービス シラス @04903ka7
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