2話 壁は崩れた

あれから30分が経過しました。

あー、頬の筋肉が吊りそう……

辛いです、もうやめてもいいですかね。


その時でした。


「あ、あの。すいません、ちょっといいっすか?」


壁の崩れる音が聞こえました。

無反応だった壁……大柄な男性は、やっと返事を返してきました。

すかさず、私も彼に話しかけます。


「冒険者志望の方ですか?」

「えっと……あー」


そう言って、彼は自分の服装をキョロキョロと見て言いました。


「多分そうっす」


どうしてそこがあやふやなんですか……。

腰に小剣を下げてますし、あなた、絶対冒険者になりたいんだと思いますよー。

この私が保証します、ただの案内人ですが。


「なら冒険者ギルドに行きましょう。街の中央にある大きな建物が冒険者ギルドになっています。そちらで冒険者の登録が出来るので、是非行ってみてください」

「あの、そこではキャラメイクのやり直し……とかって出来ますっかね?」

「そうですねぇ」


私はそう言いながら、こめかみを指で触ります。


『クレアです、ライオネルさん聞こえていますか?』

『ズゴー…ズビビビ…ズズゴッ……んん……あっ……ごほんっ。どうしたかね、クレア君』


今、私はギルド長をしているライオネルさんに、標準スキルである【念話】を使って話しかけています。

分からないことがあるなら、分かりそうな人に聞くのは鉄則です。


『実は、プレイヤーさんから、キャラメイクがギルドで出来るかを聞かれたのですが、ギルドでも出来ますか?』

『ああ、一応出来るぞ』

『ありがとうございます、それじゃあ、あとで秘書さんに寝ていたこと、密告しておきますね♪』

『え、あっ、ちょっ!』


念話を終了すると、私はプレイヤーさんに伝えます。


「キャラメイクでしたっけ?一応出来ますよ」

「そっすか……ありがとうっす!とりあえず行ってみるっす!」


そう言うと、彼は街の奥へと歩いていきました。

彼の後ろ姿が見え無くなるのを見てから。


「ん〜〜っはぁぁあ、疲れましたぁ……」


私は思いっきり伸びをしてから力を抜き、後ろに手をついて地べたに座ります。

30分も動かないことがこんなに疲れることとは知りませんでした。

それに、30分も営業スマイルを固定していたものだから、頬の筋肉が悲鳴を上げています。

明日は筋肉痛ですかねー。


それにしてもあの方、どうして30分も固まっていたのでしょうか。

とても不思議です。


「(次会った時にでも聞いてみましょうかね。会えるか分かりませんが)」


そう思いつつ、私は「よしっ」と言って立ち上がり、自分の持ち場に戻りました。

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この世界で一番大切なシゴト!! 柚乃原 暦 @YunoKoyo

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