第9話 友達

「おはようございます、麻衣さん」

「早希さん、おはようございます」


あのあと帰宅したお母さんに早希さんの話をしたら、早希さんのことを知っていたらしい。「あのおっちょこちょいの女の子でしょ?」と言われて、失礼ながらも思わず笑ってしまった。


お母さん曰く、あの図書館のちょっとした有名人らしい。


あの子なら連絡しても大丈夫だと思うけど、とりあえず会う時は日中で、なるべく相手の家とか我が家ではなくてどこかカフェとか公共の場で、という条件でオーケーが出た。


お母さんから許可が下りて、ちょっとホッとする。


「新しくお友達ができて良かったわね」

「友達……、うん!良かった」


お母さんに言われて、そこで初めて退院してから友達ができたことに気づく。


(いや、そもそも友達と言えるのかな。勝手にそう言っていいのかな。でも、言えたらいいな)


この大きくなった見た目でできた、初めての友達。どことなく、年齢的にも近そうだと思う。


今まで学校ではクラスの友達がいて、一緒に行動するうちに仲良くなって、という感じだったから、こうやってお友達ができるっていうのはなんだか新鮮だ。


そんなこんなで夜に連絡を取り合ったけど、早希さんはSNSでも同じような感じで笑ってしまった。本人曰く、ちょっとそそっかしい性格らしい。


翌日の時間と場所の話をしていたのだが、その日は途中で連絡が途切れてしまい、仕方ないので翌日にしよう、と明朝起きたあとに確認したら「寝落ちしました!」という文面と共に謝罪がつらつらと書かれていた。


ーー大丈夫です。お疲れさまです。結局どうしましょうか?

ーーでは、駅前に11時で良ければランチでも!


という連絡を取り合ったあと、冒頭のやりとりに至る。


早希さんは薄い黄色のブラウスに、コバルトブルーの長いプリーツスカートで春らしい色合いで、可愛らしい格好をしていた。


私はと言えば、ただのTシャツにジーパン。そういえば洋服とか全然買ってなかったことを今更思い出して、恥ずかしくなってきてしまった。


「どうしました?」

「いや、早希さん可愛い格好だなって」

「そうですか?ありがとうございます!麻衣さんもシンプルコーデで大人っぽくていいと思いますよ」

「そうですか?でも私、退院してからあんまり服とか買ってなくて」

「なら、もし良ければあとで服買いに行きます?私オススメのショップとかありますよ!」

「でもお金が……」

「大丈夫です!リーズナブルなお店なので!私も薄給なので、普段あんまり買えないんですよー」


とりあえず立ち話もなんですし、お店入りましょう、と促されて店に入る。中はとてもお洒落で、そういえばこういうお店に入ったの初めてだと気付いてちょっと戸惑った。


「こういうとこって何を頼めばいいですか?」

「?好きなもので大丈夫ですよ。ここはパスタとピザが有名なんですけど、もし良ければシェアします?私もあんまりいっぱい食べれる方じゃないんですけど、でも色々なもの食べたいので、よければ!」

「では、それで」


早希さんが店員さんに注文してくれる。そういうところも小慣れててすごいな、って思う。


こういうのも経験していかないといけないのか、と今までとのギャップが色々なところにあることに気づいて、合わせることの難しさに悶々としていた。


「大丈夫ですか?私あんまり空気とか読めない方なので、もし嫌なことあったらじゃんじゃん言ってくださいね」

「いや、そうじゃなくて。私、10年ずっと寝てたままでそのままぽっかり空いちゃった状態なので、こういう色々なことに慣れてなくて」


(こんなこと言っても大丈夫かな。引かれちゃったりしないかな)


不安ながらそろっと早希さんを見ると、彼女は顎に手を当てて、うーんと何かを考えているようだった。


「なるほど。そうですよね、いきなり10年後の世界に飛び込めって言われても難しいですよね。でも、無理はしなくていいと思います!私も、こういう性格なのであんまり友達とかいなくて、仕事とかも全然で。だからそういう不安はなんとなくでしかないけど、わかります。だけど、すぐには進化できないけど、毎日ちょっとずつレベルアップしていければいいかなって思ってます」

「毎日、レベルアップ……?」

「そうです。ゲームで例えると、私達はまだレベル1だけど、レベル2になるまでの経験値が非常に多くかかると思えばいいんです。いずれレベル2にはなれるけど、そのスピードが他のキャラクターと違うだけ、っていうか」

「なる、ほど?」


(わかるような、わからないような……。でも、何となくわかる気がする)


「というか、せっかく仲良くなれたんですし、敬語やめましょう。というか失礼ですけど、年っていくつですか?」

「20です」

「あ、私と同い年!やっぱり!同い年かなー、ってちょっと思っていたんです」


(お母さん以外こんなに話したのなんか、いつぶりだろう)


遠慮なく色々な話をするのが楽しかった。


同い年ということもあって、私の事故当時に流行っていたものなどで盛り上がって、その後は約束通り参考書をもらったあとに服を買いに行って、その日はとても楽しい1日だった。

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