第10話 連絡
早希は本人曰く、軽度の発達障害があるらしい。見た目じゃわからないけど、人の心を察するのが苦手で、相手が嫌なこととかを言ってしまうときがあるらしい。
そんなこと私にもあるよ、とも思ったけど、病状には色々あるらしくて、あえて詳しく聞くのはやめておいた。
そして、彼女は現在図書館の司書ではなく、非正規の司書補として働いているらしい。司書には実務経験3年必要らしく、それが終わったら司書になるための講習を受けて試験を受けなくてはいけないそうだ。
とはいえ、司書の仕事は狭き門らしく、ほとんどの人が非正規雇用で薄給で、なかなか1人で食べていくには大変だということをこぼしていた。
私は働きさえすればお金が貰えると思っていたけれど、そうか、確かに正規非正規や業種によって金額も全然違うし、求められることも違うことに気づいて、ちょっとだけまた不安が押し寄せてきた。
(でも、まずは勉強に専念しないと)
働くためには、自分で生きていくためには、とりあえず稼ぐ方法を見つけなければならない。そのためのスタートラインに立つにはまずは勉強が必要だ。勉強をして資格を取って、そこで初めて就職活動ができる。
いや、勉強しなくても就職活動はできるだろうが、選択肢の幅としての意味で言ったら自分で選べるかどうかの差が出る。いくら稼ぐと言ってもなるべくだったら自分で選び、そこでやりがいを見出したいと思う。
(ほとんど早希の受け売りだけど)
早希とはいい距離感で付き合えていると思う。お互いに勉強する立場だから、邪魔をしない程度の連絡で、図書館に行ったらちょっと喋るくらいの良い関係。
同い年だから共通の話題もあって、今まで先が見えない不安でいっぱいだった感情が、少しずつ明るい方へ行っているのがわかる。お母さんにも最近は明るくて楽しそうね、と言われた。
(ちょっとずつレベルアップしていけばいい)
勉強も小学生の分野を終え、今は中学生の後半まできた。国語や理科、英語や社会などある程度覚えるだけなものは得意なのだが、数学は因数分解や√の計算が出てきて、ちょっと行き詰ってきている。
(数字って公式はあれどそれまでの計算する行程が苦手)
答えが1つというのは決まっているが、それに至るまでの過程がうまくいかない。お母さんにも手助けをしてもらおうとヘルプを出したが、お母さんも数学は苦手だったらしい。
こういうとこはお母さんに似てしまったんだなぁ、とつくづく思う。実際に得意分野は似ているし、好きな教科も一緒だ。
(遺伝なのか、環境なのか)
昔からお母さんの影響で映画は洋画をよく観たし、もちろんお母さんが通訳をしていたせいか吹き替えではなく字幕だった。そのおかげで英語はわりとできるほうである。
読書も元々お母さんの読み聞かせから、家にある本を読み込むようになったのがきっかけだし、大体私を構成する要素はお母さんの影響が大きい気がする。
(お父さんは、何が得意だったんだろう)
今更ながらお父さんのことはあんまり知らなかったことを思い出す。そういえばいつもお父さんはお仕事ばっかりで、あんまりかまってもらってなかった。
たまに出掛けるときはいっぱい遊んでくれてたけど、そういえばほとんど家にいなかったことに気づく。
(いなくなったら確かに寂しいけど、でも今も全然連絡ないしな)
病院で一度会ったっきり。新しい家族がいるから、とこちらから連絡を取るようなことはしなかったけど、それはそれでなんというか私ってお父さんにとってどうでも良かったのかな、とも思ってしまう。
(ダメダメ、すぐに悪いこと考えちゃう)
こういうときはつい早希に連絡を取ってしまう。お仕事中はなかなか返信がないけれど、お仕事終わりには必ず連絡をくれ、そして1日数回でも早希とやりとりするのが息抜きになっていた。
(返信早くくるといいなー)
そう思って待ってみたが、その日は待てど暮らせど返信はこなかった。
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