第6話 目標

お母さんから、もし最初から勉強し直すなら高認試験を目指したら?と言われた。


公認試験、というのがよくわからなくてお母さんに詳しく聞いたら、高認試験というのは高校卒業と同等の学力があるということが公式に認められる試験だそうだ。


そして、大学の入学試験を受ける資格を得られるのと、もし就職したときは高卒と同等扱いになるらしい。


今後生活する上で、もし今後も学んでいくのであれば、できれば取っておいたほうがいいそうだ。


正直、あまりよく理解はできていないものの、とりあえずまずはそこを目指そう、ということになった。


でも、目標が決まってちょっと安心する。


ただ漠然と何をすればいいかわからなかったときに比べて、天と地の差があるくらい不安がなくなった気がした。


「麻衣はお勉強好きだったし、きっと大丈夫よ。わからないことがあったらすぐにお母さんに言ってね。あとこれ、スマホ。連絡するときに使って。使い方はね……」


渡されたスマホは、まるでゲーム機のようだった。昔あった携帯電話とは全然違ってて、10年の間にこれだけ進化していたことにとてもびっくりした。


昔はわざわざパソコンや辞書を取り出さなきゃ調べられなかったことも、スマホだと簡単に調べられるのも便利だった。


ただ、スマホは何でもできちゃうから夢中になって触りすぎないようにと何度も言われた。


確かにゲーム機もできる、読書もできる、映像も観れる、調べ物もできる、となるとついつい触りがちになってしまいそうだと思った。


(気をつけないと……)


あと、変なサイトにいかないのと、勝手に登録しちゃダメなのと、課金しないこと。この3つは絶対にしちゃダメって言われたな。


何かしたいときはお母さんに確認して、って言われたからまずは色々お母さんに聞こう。


(みんなどうしてるんだろう)


小学校の同級生、塾のお友達、みんなみんなは今、何してるんだろう。


でも、そうは思っても連絡先もなければ、そもそも私のことを覚えてないかもしれない。


(10年だもんね。引っ越しもしちゃったし)


さっきまで上がってた気持ちがちょっとずつ下がるのがわかる。ここのところ、今まで感じたことのない気持ちばかりだ。昔はこんなにクヨクヨ悩む性格じゃなかったはずなのに。


「じゃあお母さん、お仕事行ってくるから。鍵のかけ忘れだけはしないようにね。あと、お出掛けは今は図書館だけにしてね」


退院してから最初はお母さんもつきっきりで一緒にいてくれたけど、ずっとお休みを取っていたせいかそういうわけにもいかないらしい。最近では、ちょこちょこ外のお仕事にも出るようになった。


「うん、わかった」

「お金はちゃんと管理すること」

「大丈夫だよ」

「そうは言っても、あ!車には十分気をつけるのよ」

「わかってるよー。私もう子供じゃないんだから」


言ったとき、お母さんの顔があからさまに変わったのがわかった。とても複雑そうな顔をして、先程の言葉を後悔した。


「そうね、そうよね。でも、事故は突然なんだから。あの時みたいに……ってあぁ、もうこんな時間!!いってくるわね。とにかく気をつけること」

「うん、いってらっしゃい」


玄関がパタンと閉まる。なんとなくホッとした私は、さっきのお母さんの顔を忘れようと、リビングへとすぐに戻った。


「さてと、何から始めよう」


高認試験には国語、数学、英語、理科、社会の科目があって、理科と社会はそれぞれ細かく分かれている。


理科は物理、化学、科学、生物。社会は地理歴史、公民と2つある中からさらに細かく、地理歴史だと日本史、世界史、地理、公民だと現代社会、倫理、政治経済と分かれていて、その中から自分で選んで試験を受けるらしい。


正直、これだけでも頭がいっぱいいっぱいだ。小学校でやったことももちろん活かせるとは思うけど、記憶も曖昧だし、ほとんど1からやり直しだ。


(でも、お勉強は好き。今やれることはお勉強だけだから、頑張らなきゃ)


とりあえず2年、頑張ろうということになった。10年分を2年で覚えきる。要領さえよければできないこともないと言われた。試験は年2回ある。だから自分の調子次第で出願時期とかも決めよう、とお母さんと決めた。


(焦らずに、頑張りすぎないように、でも頑張る)


まずはドリルを開く。小学校の復習だ。なんとなく進めていくと、ちょっとずつ思い出していく自分にワクワクする。


(あ、これ知ってる。これならわかる)


だんだんとドリルに夢中になっていく。気づいたら、ドリルを終えたときにはもうお昼の時間になっていた。

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