ジョージの願い。

ジャックと豆柴

一途に

私達は愛されている。


時に、

私達は壊されている。


 静かな部屋の片隅で、私はいつも息を潜めている。貴女に愛される為に、貴女に壊されない様に。


 私は長いことこの部屋に住んでいる。彼女が生まれる前から、彼女の親とはもう長い付き合いである。私以外にも部屋に住んでいる者は沢山いる。犬や猫、兎に不思議な色をした鳥。その中でも部屋の主人の彼女のお気に入りは一際体の大きな熊。彼女は熊の大きな体に包まれながら本を読むことを何よりも楽しみにしている。私はその姿を瞬きもせずにいつも見つめている。嫉妬などしていない。私にも彼女に選ばれる時が少なからずあるから。

 大雨、強風が酷く荒れた天気の毎日。彼女は泣きじゃくり、喚き、部屋へ帰ってくる。始めはお気に入りの熊に慰めてもらっていたが、いつしか視線は私の方に移る。荒れ黒ずんだ肌、細い関節、捩れたハラワタ、見ていて哀れとも言える私の仕事。若く理性の効かない彼女の怒りを受け止める事が私の仕事である。無心で殴り、蹴り、投げつけられ、くたくたの私の体は更に形を失う。私が受け入れる事で彼女が落ち着き、また笑顔になってくれるのなら私は受け入れる。まだ願う事があるならば私以外にはどうか優しくして欲しい。そう願いながら、泣き疲れ眠る彼女の姿に私の胸を強く締め付けた。

 彼女が怒りをぶつける回数は日に日に増して行く。うまくいかない事があるのだろう。彼女を笑顔にすることができない私はなんの為にいるのだろう。昔は私も人を笑顔にすることができた。一緒にベットに入り、眠れない夜いつも隣で慰めた。「1人じゃない私がそばにいる、安心してお眠りなさい」と。これがどれだけ私達にとって名誉な事か。それももうできない。千切れそうな腕に、潰れた顔、ほつれた指先。いずれ、此処にいることもできなくなるだろう。今できる悲しい行為を私は精一杯やり切るしかないのだ。大切な貴女の為に。

 いつか私が居場所を失い、形を変えることになるならば皆んなには優しくして欲しい。皆んなは私ほど強くできていないのだから。私以外に向けるその優しい貴女のままどうか育って欲しい。貴女が優しい心を育む為なら私はどうなっても構わない。私は貴女の為に存在しているのだから。






 もし、最後に私の我が儘を聞いてもらえるのであれば「ジョージ」と呼んで欲しい。貴女が付けてくれた大切な名前を呼んで欲しい。

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ジョージの願い。 ジャックと豆柴 @matsudamen

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