第14話 孤独の王と夜叉

「ひ...ひぃぃいいいい!」


血の池から男の断末魔が響き渡る。


燕はゆっくり起き上がり歩くと、夜叉の隣に並ぶ。


「この声は...大臣......貴様だけは......!」


「こやつの首だけは...お主が切り落としたいじゃろう?」


「すまん黒羽......大臣よ、私はこの時を今か今かと望んでいた!

貴様の首をたたっ斬るために!

そのためだけに皆を殺してきた!」


燕がじりじりと大臣に近づいていく。


「お、おおお助けを!燕王様!」


大臣は恐怖の表情で燕に手を伸ばす。


「たわけが、私は王などではない!ただの人形であった!

それもこれで終いぞ......去らばだ悪しき人間よ」


燕は大臣の手もろとも顔面に刀を突き刺し、

そのまま首を引きちぎる。

燕は夜空を見上げると、するりと刀が手からこぼれ落ちる。


「燕よ......見事であった。あとはお主が...」


夜叉が七夜刀を構え、燕に近づいていく。


「......なんとなく察しておった。最後にお前の役に立てるなら、

それは本望というものだ」


「......いつから気付いておった?」


「なに···お前が私に刀を抜かせた時だ、あの時憎しみの中に確かに私の血への憎悪を感じた」


「もうはるか昔に···儂は鷹の国で働いておった。

あの頃の儂は働き者で、上からの信頼も厚く、王からの評判も良かったのじゃ。

ある日、城の宝物庫の整理をと命じられてのう。

儂はただ命令の通りにこなしたまでじゃった。

それが儂の人生の終わりになるとは思いもせなんだ。

儂が宝物庫から盗みを働いたと···誰かが王にそう言ったのじゃ。

いや誰か···ではないな、何人もいたのじゃ。

その時初めて儂は気付いた。上からの信頼、そんなものは何もなかったのじゃ。

奴等は王に気に入られた儂を消すためにただ弄んで陥れた。

捕まる前に逃げ出した儂は森の大樹の根元に座り込み休んでいたのじゃが、尾行されておったのかのう···遠退く意識の中で心臓を刀で一突きにされたのを今でも忘れぬ。

あの時のうすら笑う王女の顔をな。

儂の心臓を貫いたのは、宝物庫から持ち出された刀じゃ。

そのまま果てた儂は無念の末にこの醜い姿に成り果てたのじゃ。

儂は憎んだ···鷹の国のすべてを······王族の血を心の底から憎んだ。

儂は······お主を殺すためだけに···」


「もうよい黒羽······私がお前の全てを終わらせようぞ。

それに···醜くなどない、私には可憐に見えるぞ」


燕は振り返り笑顔で夜叉を見つめる。

夜叉が顔を上げ燕を見ると、一筋の涙が零れ落ちる。


「儂は···儂は······」


「よい黒羽、今こそ借りを返そう。

お前の手で死ねるなら、未練などありはせぬ」


「燕よ······」


夜叉が刀を握り燕の前に立つ。


「さぁ、お前の憎しみを終わらせる時ぞ」


燕が両手を広げたその胸に、七夜刀を突き刺す。

燕は突き刺さる刀もろとも、夜叉を抱き寄せる。


「くろ···は···世話に······なっ···た·····な·············」


「······う······く·········さらばじゃ、儂の愛しき燕よ」


燕の腕に包まれた夜叉の頬には


大粒の涙が流れ続けた






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孤独の王と夜叉 しろくま外伝 @sirokumagaiden

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