第22話 もふもふと新たな家族。

 風呂から上がり部屋で一息ついていると、タキさんが、みんなが集まってるから来て欲しいと呼びに来た。


 案内されると、円卓がある部屋。また円卓ですか、どうやらあまり好きじゃないかも。全然落ち着きませんよ。


「さて、アオバ。邪龍討伐協力ありがとう。アオバのおかげで邪龍を倒す事が出来たよ」


 ジズは改まって言った。


 う~んなんか固いですね。みんなも真顔だし……じゃなかった笑顔だった。


「いや~ほんとにありがとね」

「これで死んだ仲間も浮かばれるってもんよ」

「アオバ殿がいなかったら消滅するところでござった」

「ただの変態じゃなかった……」

「アオバさん見直しましたわ」


 変態……ラブック。やっぱりあなた、そんな風に思ってたのね。


「ところでアオバ、素材渡す時に譲るって言ったの覚えてる?」


「ええ、覚えてるよ。ありがとう」


 貴重な素材をありがとう。ファミリーの装備も充実しますよ。


「なら話しは早いね。タキ、アレを」


 ジズが言うとタキさんは書類を持ってきて俺に渡した。


「何です? これは」


「その書類は、このファミリー、つまり赤月レッドムーンの権利を一切譲渡するという書類だよ」


 笑顔でジズが言った。


「ほぇ?」


 何ですって? どういう事かな? わけがわかりません。


譲渡だよ。アオバも同意したじゃん」


「そうだけど、あれは素材の事だと思ったんだけど……」


「もともと、邪龍を倒せる者が現れたら譲渡するつもりだったんだよ。それがたまたまアオバだっただけ。でもアオバでよかったよ」


 みんな頷く。


 う~んなんか騙された気分だよ。


「譲渡はわかったけど、赤月レッドムーンはどうなるの? こっちは蒼いブルーウィングスがあるし、二つもファミリー持てないよ」


「もちろん解散するよ。形が変わるだけで赤月レッドムーン魂は心の中にあるから。だいたい既に解散してるのと同じだしね。この家も財産もアオバの好きに使って」


 何か憑き物から解放された様な顔でジズは言った。


 いや~凄い困るんだけど、こんな事1人じゃ決められません。


「あのですね、話しが大きすぎて1人じゃ決められないんだけど、うちのメンバーと相談していいかな。受けたとしてジス達はどうする?」


「いや、今決めて欲しいんだ。元々僕達は邪龍を倒したら成仏するつもりだったんだ。だけどアオバと一緒に居たら楽しいかなって思った。実際一緒に居て楽しかった。もし、アオバが断るなら権利を冒険者ギルドに渡し、僕達は成仏しようと思う」


「まさか貰うもの貰って俺達を切り捨てるなんてことしないよな?」


 ラブックが俺を見て言った。


 他のみんなの視線が俺に刺さる。特にワホイットが、上目遣いで目を潤ませ俺を見ている、そしてボソッと言った。


「アオバと一緒に居たい」


 ぐはっ!! こ、これは効きました。

 いっいや騙されませんよ。

 あっでも可愛い!!


 くっそ~。もちろん譲渡を受けたらジズ達を受け入れるけどさ。でも、断ったら成仏…… 。


 う~ん、成仏か~。


 考えながらチラっとワホイットを見る。可愛い。可愛すぎる。


「あの~皆さん、邪龍を倒したから未練はないんだよね?」


「ある。アオバと居れなくなる事です。成仏してもしきれないよ」


 ワホイットがじ~と目を潤ませなが見てくる。


 シバも潤ませて見てくる…… 。


「 はあ? キモいわっ!! そういうの要らないから。成仏させようか?」


 シュンとなるシバ。


 これは、はめられた。最初から企んでましたね、俺なら断わらないと。そしてワホイット、あなた中々の小悪魔ですね。

 ラブック、あなた今ニヤッてしましたね。見逃しませんでしたよ……。


 まいっか、いいでしょう。全て引き受けようかな。考えてもしょうがないもんね。

 面倒な事が起きたらレスガーシュさんに押し付ければいいし。表向きは家長なんだし。


「良いでしょう。受けますよ。全て任せなない」


 ドヤってみた。


 そして書類にサインした。

 後はギルドに提出するだけだね。それは明日にしますか。


「え~皆さんこれからよろしくお願いしますね。それと、俺が転生者って事は他のメンバーには内緒にして下さいね」


 みんな首を縦に振る。


「あっ! それとね。一応言っておくけど、俺のこの世界での目的は、あくまでも、もふもふ第1。世界中のもふもふをテイムし、もふもふしながらのんびり暮らす事だから、邪魔だけはしないでね」


「それは素晴らしい。是非拙者も共にもふもふもと過ごしたいでござる」


 スリップは目を輝かしている。「私も」とワホイット。


 二人共すっかりもふもふの虜ですね。

 まぁあなた達も、もふもふじゃないけど既に同類ですよ。


「さて、そうと決まれば祝いには蒼いブルーウィングスのメンバーも紹介の為に連れて来てもいいかな?」


 もちろん了承してくれた。そして、夕の鐘がなったら『スマイル亭』に集まる事になり、解散した。


 みんなに何て話そうかな。驚かれる事には間違いないだろうけど……。


 ◆◆◆


「ただいま」


 何食わぬ顔で帰った。すると、うさ子が勢いよく頭に飛び乗ってきた。


「うさ子~ただいま」


 うさ子を撫でながらリビングへ行った。


「おかえりなさい」


 レスガーシュさんがコーヒーを飲みながら挨拶をしてくれた。意外とあっさりしてますね。他のみんなもくつろいでいる。アンソニーも。


 シーナとイスカは上の階から降りてきた。その後ろに見知らぬ生き物が2体浮かんでいた。


 ぉぉぉおおおお!? 何ですかそれは!! 猫ですよ猫、空飛ぶ猫。2体ですよ、しかも仔猫。黒猫と白猫、カワイ……くはないです。野生の凶暴そうな顔はしてます。

 いやもう、この世界の魔獣はいちいち怖い顔してるよ。小さい仔猫さんまで。

 でもまぁ顔は怖いけど、むしろカッコイイ。何故かって? 2体ともオッドアイなんですよ。

 黒猫は右が金、左が赤。白猫の方は右が紫、左が緑。カッコイイ。


「おかえりなさいアオバさん。何処行ってたんですか? 」


 笑顔で挨拶をしてくれるシーナ。


「「アオバ、アオバ」」


 仔猫達が無邪気に俺の名前を呼んだ。


 ハモったよ。ヤバい、可愛い!! 可愛いく思えてきた!!


 俺はシーナの後ろに浮かんでいる2体をニマニマしながら撫でた。喉をゴロゴロさせながら擦り寄ってくる。

 人懐っこい仔猫達です。


「何ですかこの子達は」


「あ~可愛いでしょ~。この子達はですね」


 シーナも仔猫を撫でながら話してくれた。


 まず仔猫の名前はシーナが決めて、黒猫はクロ。白猫はシロと名付けた。まんまですね。


 なぜ仔猫が一緒に居るかというと、今朝起きたら、まだ俺が帰って来てないし、暇だからと昨日の続きで、またレスガーシュさん達とLv上げに行く事にした。


 今回は北東の森に向かった。そこで洞窟らしき所が崩壊していたのを発見。みんな不思議に思ったらしい。その先更に奥へ進んだら、この仔猫達が居たのを見つけたとの事。


 レア獣で、種族は猫族の種類は空猫(スカイキャット) 温厚な種族。


 普段は深緑の森に棲んでいて、遊んでるうちに北東の森まで来たとの事。迷子になったらしい。そこでシーナ達に会って懐いた。そこまでで、特別強い魔獣に出くわさなかったので街に戻った。そして、今に至るとの事。


 昨日俺が行った森ですね。よかった、先に行っといて。じゃなきゃどうなっていた事か……。


 この猫達テイムしたいな~。デフォ化したら萌えること間違いなし。従魔になってくれるかな?

 一応聞いてみたら、シーナに懐いているみたいで、俺の従魔にはならないとの事。残念。

 なら、今度深緑の森に行った時にでも捕まえよう。


 とりあえず昨日からの出来事を報告した。

 北東の森での事、邪龍討伐した事。

 レスガーシュさん達は目を見開き驚いていた。アンソニーも最初は驚いていたけど、まぁ俺だからと納得していた。イスカは感心していた。シーナはキョトンとしていた。


 そしてレスガーシュさんは、赤月レッドムーン蒼いブルーウィングスに組み込まれる事に驚いていた。会えるとは思っていなかった過去の英雄達。ゴーストになってた事にも驚いてたけど、それが仲間に加わる事に大変興奮していた。


 どうやらレスガーシュさんは、子供の頃からジズ達の話を聞かされ、憧れていたらしい。そりゃ興奮しますよね、憧れの勇者達が仲間になるんだから。


 ついでにもうひとつ報告した。背中に居る邪龍の事を。


 唖然としていましたよ。そんなの聞いた事ないと。何故そうなったのかは、当然邪龍程の龍を倒した者なんていないから、分からないのは当たり前ですね。


 シーナはそれを見て、可愛いと言いながら俺に抱きついた。


 イスカはその様子を微笑みながら見ていた。


 レスガーシュさんは「人外になる日は近いですね。いやもう人外ですな」などと言って笑っていた。他の仲間は頷き笑っている。

 まだ人間は捨てませんよ。苦笑した。


 その中で一瞬、鼻で笑い、俺を小馬鹿にした態度をとった人物が1人居た。

 やっぱり早い内に手を打たないとダメかな……いや、見捨てはしない。あれでもファミリーなのだから。


 ◆◆◆


 夕刻の鐘が鳴ったので皆で『スマイル亭』に向かった。今回はうさ子も連れて。


 店に入るとネファーさんとタキさんが居た。タキさんはネファーさんを手伝だっています。


 既に料理は出来ており、テーブルに置かれていた。どれも美味しそうです。匂いがたまらないです。


 うるちゃんはその匂いにヨダレを垂らしています。


 内装の飾り付けも素敵ですね。イスはないから、どうやら立食パーティー的な感じですね。


 挨拶を済ませ、適当にテーブルに付いた。


「ネファーさん、ジズ達はまだ来てないんですか?」


 訪ねると、ネファーさんはニコッと微笑んだ。すると突然店の電気が消えた。


「うぉなんだ?」

「キャー」

「ニャンですの?」

「いや~ん」


 などなど驚きの声が飛び交う。


 誰だ? 今、野太い声で「いや~ん」って言った奴は……。


 そして直ぐに電気は付いた。


 ん? 瞬停かなと思った瞬間、「いらっしゃい」とジズが俺の目の前に現れた。他のメンバーの前にもシバ達が。


「「うおおおおぉ!!」」

「キャー」

「ニャン」

「いや~ん」


 パーンパーン


 少し遅れてクラッカーが鳴いた。虚しく響いた。


 驚いて腰を抜かしてしまった。

 シーナもイスカもそれにナウィンさん、ダッチさんも固まっていた。

 レスガーシュさんは腰の剣鞘に手を当てている。

 カノプチさんと、エソレプスさんは笑っている。

 ヒコさんなんて四つん這いになって店を出ようとしています。


「腰抜かすなんて情けないな~。サプライズだよ。それよりクラッカーが空振りしたじゃん」


 そう言い無邪気に笑うジズ。


 …… 言葉が出なかった。


 くそっ!! 突然目の前にいきなり人が現れたら誰だって驚くでしょうが!!

 どんなサプライズだよ。要らないんだよそういうの!!だいたいクラッカーのタイミングってか、空振りって、当たり前じゃん!!


「ご対面は終わったようなので、始めましょうかね」


 ネファーさんの進行で、お互い自己紹介を済ませた。


「今回は邪龍を見事討ち果たす事が出来て良かった。これも全てアオバのおかげです。ありがとうございました」


 深々とジズは頭を下げた。

 それと同時に他の赤月レッドムーンメンバーにネファーさんもお礼を言い頭を下げた。


「そして、これからは葵いブルーウィングスのメンバーとしてよろしくね」


 ジズは右手を俺の前に出した。それに答える様にジズの右手を握った。


「ああ、こちらこそよろしく」


「さあ今日は貸切りだから思う存分飲んで食べて楽しんでね。もちろんお代はこっち持ちだから遠慮しないで」


 ネファーさんが、グラスを掲げエールで乾杯した。


 折角なので【ディスチャージ】し残りの従魔を出した。アンソニー、ライム、ラビー。

 ネファーさんが目を丸くして驚いていた。と思ったら、ニヤケ顔に変わった。


 シーナとイスカとワホイットは料理を食べながら楽しそうにお話をしている。

 ナウィンさんとシバは酒の飲み比べをし、レスガーシュさんはジズと何やら話をして、興奮している様子。

 タキさんは料理を運び、何故かダッチさんがそれを手伝っている。

 従魔達とうさ子が料理を口にほうばっている姿をロロとスリップがニマニマしながら酒を飲んでいる。

 ラブックとヒコさんは料理を食べながら笑顔で話している。いやびっくりですよ。2人ともあんな笑顔が出せるんですね。


 みんな楽しそうで何よりです。


 ジズとエールを飲んでいるとそこにネファーさんがやって来た。


「ジズ達がブルーウィングスに入るなら私もファミリーに加えてちょうだい。冒険者には戻らないけどさ、『スマイル亭』でご飯を食べるならファミリー割引で半額にしてあげるわ」


 ネファールさんはウィンクして言った。


 半額ですか、そこはタダじゃないのね。でもありがたいですよ。

 ネファーさんのファミリー入りは、もちろん承諾した。


 それにしても、この世界に来てからまだそんなに日がたってないのに、ファミリーを持つとは思わなかった。ただもふもふを仲間にし、もふもふを堪能しながらゆっくり過ごすはずだったんだけどな。


 まぁ何人ファミリーが増えようが、何が起きようが目的は変わりませんけどね。


 とりあえず明日はジズ達をファミリーにする為ギルドに行くとして、その次はEランクに昇格。それから……。


 色々考えていたらイスカが俺の手を引いた。


「アオバ様、こちらでみんなと飲みましょ」




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もふもふ生活。もふもふしたくてテイマーになったので誰にも邪魔はさせません……。 にゃん汰 @nyanta44

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