08 作戦会議
猪突猛進に突っ込み、勢い任せに事を進める。それも一種の方法だ。が時に細心の慎重さを以てして挑まねばならない時もある。
アインヒューズ兄弟にとって、今がまさにその時だ。
仮面の者達にニヒトを奪われ、救出の方法は軍駐屯地に乗り込む他ない。
逃げ去られて暫くは、そのまま軍駐屯地に突っ込もうとしていたがそれでは間違いなく返り討ちだ。なにせ軍には腕利きの兵士もいると聞く。それにあの目の髄か威圧を発す元帥エンディランがまだ駐屯地にいるとなれば真っ正面から敵に回して可能性は低い、おそらく。
「元帥エンディラン、名前だけは聞いたことがあるけどそんなにやばそうな人だったの?」
とエリックが駐屯地でのことを話した後にシドが疑問符を浮かべ尋ねる。その声が四番街にある外装も内装も質素で飾り気のなく、所々塗装の剥げたボロい宿屋に響く。
彼らがわざわざボロ宿屋に泊まっているのは、なにも好きでやっていることではない。
このまま素直に喫茶店テスラに帰ってしまえば、またあの仮面の二人組が襲ってくる可能性だってある。――リテロとデリーの来訪から察するに軍部にはあそこが彼らの住処だと特定されている可能性がかなり高い。
だからこそ今このタイミングでのこのこと帰るわけにはいかなかったのだ。
「やばいなんてもんじゃないな、ありゃ。目から出る気迫からしてただもんじゃねぇ」
「でも元帥ならいつまでも駐屯地には居座らないんじゃない?」
「いや――そうとは考えずらいんだよな。元帥が居た部屋に入った時、机の上にわざわざ名前入りのプレートが置いてあったからな。少なくとも一日とそこらで帰るつもりはないんだろ」
ではどうすれば良いのか――顎に手を当て思考する兄弟。
「シド、なんか造れないか?」
「無理だよ、機材はテスラの二階にあるボストンバッグの中だし。モールで機材を買うにしてもここの宿泊代でお金全部使っちゃったし――兄さんこそ何か策はないの?」
「うーん……あっそうだ!」
「何かいいの思い付いた?」
兄の一言に希望の眼差しで彼の双眸を見つめる弟。
「軍の人間に変装するんだよ!」
「へん……そう? でも軍服は市販では売られてな――」
「兵士から奪い取るんたよ」
その一言に「ん?」と声を漏らして首を傾げるシドを見て、
「つまりだ」
指を立て自信に満ちた顔で言うエリック。
「兵士から服を剥ぎ取って俺たちがそれを着る」
「それじゃなんだか兵士の人可哀想だなぁ……まあそれはそれとして、どうやって剥ぎ取るの?」
「俺が雷で気絶させる」
「でも気づかれるんじゃ……」
「それなら大丈夫、何処に何があったかくらいは大体は覚えてる」
大まかではあるが先程行ったばかりの駐屯地の地形を記憶していた。
「――で、変装したら。軍の人間風を装ってニヒトの居場所を聞き出す」
無駄のなく完璧な展望が兄の脳に浮かぶ傍らでどうにも腑に落ちない弟が、
「確かに悪い計画じゃないと思う――思うんだけも……そう上手くいくもんかな?」
と尋ねると
「見たところ駐屯地は警備も薄かったし心配はない。――それにニヒトは必ず取り返さなきゃならないしな」
眉を寄せ、真摯な面持ちで返すエリック。初めこそただの父に関する手掛かりの近道に過ぎなかった、だが今の彼はニヒトにそれ以上の意味を見いだしていた。
「確かにあいつは人によって造られた人工生命だ、でも『機械』の一言だけじゃ片付けられない。あいつには確かに心があった。それも俺達人間となんら変わりのない――シドもそうは思わないか?」
優しく笑みを浮かべるエリックの顔が弟の目に移る。
「うん、僕もそう思うよ。仮面のやつらと戦ってる時も僕達を助けてくれたし」
「え? あの時のはお前が呼んだんじゃなかったのか?」
「違うよ、あの時僕はガトリング担いで一人で部屋から出たんだよ、どうせ厄介ごとに巻き込まれてるんじゃないかって思ったからね」
「どうせってな――まああの時はほんっとに危なかったからな。シドが来てくれなきゃ俺はあのままナイフでスパッとやられてたよ。あの時はありがとう、でかい借りが出来ちまったな」
「いいよ借りだなんて、僕ら兄弟なんだし」
首を横に振るシド。彼にとっては弟として当然のことをしたまででありなにも貸しなどと大それたものではないと思っていた。
「いいんならそれでいいけどさ。――んじゃ話を戻すけど」
手を叩き部屋中の空気を制する兄に弟も心持ちを引き締める。
「作戦の決行は今日の夜九時、駐屯地の人手が少なくなるであろう時間を狙う。――二人の軍隊を気絶させた後、服を剥ぎり変装、軍人を装いニヒトの居場所を聞き出す。オッケー?」
同意を求めるべくシドを一瞥し親指を立てる。――がどうにも腑に落ちてなさげな顔をする弟。
「オッケー、って言いたい所なんだけどニヒトの居場所が解った後はどう動くの?」
「――そればっかりはニヒトの居場所が何処かにもよるからなぁ。要するにそっから先は無計画でどうにかするしかないな。他には何か聞きたいことはないか?」
「いや、僕からは他には特にないよ」
よし、ならばあとは決行まで心頭滅却して待つのみだ……と思っていたいたが一つだけエリックに気掛かりができる。
「シド――そのガトリング、どうするんだ?」
弟の真隣にどっしりと鎮座する重厚なそれを指さして言うと彼はそれを持ち上げ、ハンドルの側面にあるボタンを押すと――あら不思議、重々しい出で立ちのそれは見る見るうちに折り畳まれシドの掌で僅か二十センチほどのポケットサイズになってしまったではないか。
「折り畳み式だから問題なし!」
と言うと、掌のそれをズボンのポケットにすっと入れる。まるで仕組みが解らない、とエリックは目を白黒させ、瞬きを繰り返していた。
「ま、まあ、そういうことなら問題ないな――そうと解れば後は月が昇るのを待つだけだ!」
そう言うとエリックはシドに拳を突き出す。言わずともその意味を汲み取った弟は、突き出された拳に自らの拳を力強く合わせた。
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