第3話
私は、カウンセリングルームに連れて行かれた。
私は笹本先生に、今日見た三分間の夢を語った。
そこに何かのヒントがあるかもしれないと思ったから。
結果は、あまりに生々しすぎて、気分の悪くなった医師と患者の二人組という絵面だった。
「ちょっ……と、生々しすぎますね……。少しずつでいいですか……」
「え、ええ……、私もちょっと……」
「最後に、一つだけ。その殺された女性、ミディアムヘアーで、毛先がちょっと外ハネしている、という感じだったんですね」
「は、はい」
「よく覚えていますよね。具体的で、きちんとこういうもの、と表現できるほど、記憶として定着している。結構覚えていないものなんですけどね」
「何ででしょう。鮮明で、焼き付いたように覚えてしまうんですよ」
「ふむふむ。まあ、いいでしょう。嘔吐止めとちょっとだけ落ち着く薬の処方箋、用意しますので、来週あたり、また来てください」
「あ、ありがとうございます」
ちょっとだけ、晴れたような気がした。
以前の精神科の先生の百倍よかった気がする。
幻想の主と入れ替わったのは、深層心理が、この先生を捕まえろ、と言っていたんだろうか。
そして、それからの一週間、私は幻覚を見なかった。
不安が幻覚を呼んでいたのかもしれない。
だとしたら、笹本先生に会ったのは、本当に運がよかったんだろう。
少しだけ、あの幻覚に感謝してもいい気がしていた。
そして、一週間後、私は病院へと出かけていった。
解決したのだ、という喜びも一緒に。
いやいや、いけない。
大丈夫だから、と、この縁を逃しては、また元の木阿弥になってしまうかもしれない。
たまたま一週間見なかっただけだ。
だから、私はきちんと病院へ行くべきだろう。
受付で二十分ほど待って、改めて診察室へ。
そこには、にこやかな笑顔の笹本先生がいた。
「宮澤さん、よくいらっしゃいました」
「先生、あれから一度も幻覚を見ないんですよ」
「そうですか、いいことですね」
「はい、ちょっと心が楽になりました」
「それはよかった。ところで、僕は宮澤さんに聞いてみたいことがありまして」
「はい?」
「先日の幻覚のお話です。殺された女性の方ですね」
「ああ、外ハネ……」
「そうそう、その人です。その人は、こんな顔じゃなかったですか?」
笹本先生は、そう言って足元の鞄から、生首を取り出した。
それは、たしかに「あの女性」だった。
「いやあ、お話を聞いていて、よく似ているなあ、と思ったんですよ。そうしたら、僕の中、今まで積もりつもった怒りが湧いてきましてね。あなたは過誤記憶なんじゃない。未来を見たんですよ。きっとね」
私は叫びを上げた。
どこからどこまでが幻覚なのか。
いつから幻を見ているのか。
今は現実なのか。
何もわからないまま、叫び声を上げていた。
三分間の殺人幻想。 阿月 @azk_azk
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