[12]


 なぜか白良さんの運転で、わたしたちは事務所に帰ることになった。

 座席の配置は助手席に常陸さん、後部座席にわたしと宗像さん。

 まだまだ気安いとは言えない大人たちに囲まれて帰る、というのはなかなか精神的に堪えるが、仕方ない。常陸さんの針の筵ぶりに比べれば、まだましと言える。自分より立場がツラい者が身近にいると、人間、大抵のことは我慢できるようになっているのだ。

 さて、その道中では白良さんの登場のため途中で終わっていた、答え合わせの続きが行われた。


「ほう、採用試験の続き、ね。ルートがどうのと、一体何の話をしているのかと立ち聞きしていたが、そういうことか」


「ええ。実際の殺人事件で採用試験なんて不謹慎かもしれませんが」


「実地で試すというのは、何であれ必要なことだ。一向に構わんよ。

 しかし、採用試験がフェアではなかった二つの理由か。未練から試験の内容は聞き及んではいるが……もう一つの理由というのは一体何だね?」


「お、常陸君、白良さんもわかっていないようだよ。一本取るチャンスだ」


「くそ、ここぞとばかりに攻勢をかけてきやがって……」


 常陸さんが歯噛みしているのが後部座席にも伝わったが、横に白良さんがいるためもあってか、小声で悪態をつくに留まっていた。その様子を楽しそうに眺めながら、宗像さんは白良さんに言う。


「そう引っ張る事でもないんですけどね。僕たち、というか白良さんや常陸君からすると、余計に気づけないことかもしれない。採用試験の時と同様ですよ。当たり前だという思い込みは、人の目を曇らせる」


「思い込み? 採用試験の時と同様と言うと…………ああ、ふむ。今回の初事件は、真名嬢による、宗像九郎の採用試験を兼ねていたということか」


「え、どういう意味ですか、それ?」


「つまり、だ。宗像九郎の〈力〉は、未練おまえや吾輩にとってはすでに自明で不変だが、真名嬢にとってはそうではないということだ。ペーパーの試験では、九郎の〈力〉が本物かどうかは判定できないからな」


 そう。あの採用試験が、すべて机上の出来事である可能性を排除するためには、現実の殺人が必要だったのだ。いかに宗像さんが自分の〈力〉について語ったとしても、それは百聞に過ぎない。一見して初めて、わたしは宗像さんを信じることができる。


「あー、なるほどなー。実際の事件を扱わないことには、採用試験のアレは妄想だと思われてもしょうがないわけか。ほーん。

 そりゃあそうか。あたしも最初は、何の冗談で警察がこんな連中頼ってんだと思ったもんだし。……ん? というと、真名ちゃんが不合格を宗像に通知する可能性もあるわけか。どうだい? 真名ちゃんの採点結果は?」


 常陸さんが首を回して、ニヤけ顔をこちらに向ける。わたしは答える前に、宗像さんの方をチラリと窺った。


「……宗像さんの〈力〉に嘘はない、と思います」

 今回の事件――現場に着いてからの常陸さんの追加情報なしには、無藤若菜を殺人者と断定することは不可能だ。あのタイミングで、間違いないと言い切れるということは、宗像さんの〈力〉は本物なのだろう。


「そんじゃ、試用期間はお互いに終了っつーことか。『あたしたちの本当の戦いはこれからだ!』ってやつだな。めでたしめでたしだ」


 なぜか打ち切りマンガのアオリのように、常陸さんは〆るのだった。主人公に手錠が嵌められている状態でエンドロールが流れるというのは斬新である。それはそれで観たい気もする。

 が、このままこの事件を終わらせるつもりは毛頭なかった。訊かなければ、問い詰めなければならないことがいくつかある。

 少なくとも、解決のルートについては、絶対に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る