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現場に向かう車内で、ハンドルを握る常陸さんから、事件の概要説明があった。
本日早朝、とある別荘地から電話があった。
『サークルの仲間が殺されている』
すぐに警察が向かったところ、
警察は同所にいた
被害者を含めたこの五名は、桔梗女子大学の文学サークルのメンバーだった。
大学公認のサークルではなく、非公認のもの……と説明され、わたしには違いがわからず、ピンとこないところがあったが、
「真名ちゃんの高校にも部活動ってあんだろ? ちゃんとした部なら部費が出たり活動場所がもらえたりするが、ただの趣味の集まりじゃそうはいかねー。似たようなもんだと思ってくれればそんなに間違いはない」
と常陸さんから補足が入り、なるほどと得心した。ただし、朱星女子高校には『部』の名の付くものは一切存在しないのだけれど。それを、なぜか宗像さんが常陸さんに説明する。
「朱星女子は、『自分たちは象牙の塔の住人を育成するために存在している』と公然と述べているからね。放課後、自由参加型の講義やゼミは行われているが、部活動という名称は用いられていない。高体連や高野連が管理しているようなイベントごとにも参加していないはずだ」
……なぜこの人は、朱星女子のシステムにこれほど詳しいのだろう。
「ん、そんな学校だと、アルバイトとか禁止なんじゃねえの? 大丈夫なのか、真名ちゃんは」
「そんな学校だからこそ、わざわざ禁止を公表しなくても、アルバイトをしたいという生徒自体が少ないのさ。親御さんが金銭的に恵まれている子の方が圧倒的に多いしね。
それに、下手に禁止と言うと、若者はその果実を齧りたくなる。藪をつついて蛇を出すよりは、一切触れないでいる方がマシだという方針を取っているんだよ。
そうだね、真名君?」
わたしは曖昧に頷く。
……なぜこの人は、わたしより朱星女子のシステムに詳しいのだろう。
常陸さんは「へー」と聞いていたが、内容がずれていくのに気づいたのか、本筋へと修正した。
「どこまで話したっけか。……そうそう、サークルの話だ。
その文学サークル、結構外部から人気があったらしい。美人女子大生の文芸ユニットってな。
被害者の東原カズミに関しては、高校時代に一般の文芸誌で小説家デビューしてる俊英だったらしいし、他のメンバーもマスコミに何度か取り上げられたことがあるそうだ。
ただその取り上げられ方は、『小説家』って言うよりも、『アイドル』って感じで、だがな。ほら、『美人過ぎる』なんちゃらって、一時期流行ったろ? ああいう感じ」
その文芸サークルの五名は、千堂千穂の父親が所有する別荘で合宿を行っていた。別荘はもともと、千堂の父親が、娘の文壇デビューを祝い、サロンの場として作ったそうだ。
長期休みでもないこの時期に合宿を開いた理由について、『六月十九日の桜桃忌(太宰治の忌日)に合わせるためだった』と、メンバーが答えている。
「合宿自体の目的は、同人誌に載せる小説執筆のためだったんだと。……なんて言うんだっけか……えーと、即売会か? それに出す予定があった」
金曜日の夕方から日曜日の昼までに短編小説を書き上げて、その後、合評会をする。そして作品と、合評会の様子を文章化したものをまとめ、文芸関連の即売会で売り出すつもりだった。
短編小説は、事前にネタを準備できないように、五人が各自キーワードを用意。
それをシャッフルして配り直し、そのワードに基づいて書くという、ゲーム性を混ぜ込んだ企画だった。
SNS上では、金曜日に別荘に着いてからの様子が随時アップされ、宣伝されていた……とのことで、わたしも自分のスマホで確認したが、なるほど、『文芸の売り出し』というより『タレントの売り出し』に近いものを感じた。そこは常陸さんの言った『アイドル』、『ユニット』という言葉が腑に落ちる、自撮りの集積場だった。文学の話は、むしろ添え物である。
彼女たちがレンタカーで別荘に着いたのは、夕方五時ごろ。実施初日が金曜日で、講義がある者もいたため、この時間になったそうである。
その夜、全員で夕食を取った後、コーヒーを飲みながら、キーワードを書いたカードの交換を行った。お互い、何が配られたかを和気あいあいと話した後、各部屋へ。リビングから人がいなくなったのは夜の九時ごろ。
メンバーの多くは自分のカードをやはりSNSに載せている。もちろん、カードがメインか本人がメインかわからない写真で。
ここで時間は、翌日の朝七時三十分まで飛ぶ。
あらかじめ設定していた集合時間に、東原カズミだけが姿を現さない。
時間を十分ほど過ぎたころ、千堂が部屋に様子を見に行くと、ベッドの上で、東原が首にロープを巻いた状態で絶命しているのが発見された。
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