[3]
「……――改めて紹介しよう。こちらは常陸未練君。元相棒と組んでいた時代から仕事を回してくれている斡旋役さ。驚くべきことに国家権力の担い手だ。真名君が自分のポジションを巧みに使って常陸君とタッグを組むと、僕を冷たい檻の中に連れていくことができる。恐ろしい話だね」
「巧みに使わなくても送り込めそうですが」
「いやだな真名君、そんなことを言ったら、僕が真名君に日ごろからよからぬことをしているみたいじゃないか。……ああ、今日も心地よいジト目だね。満点だ」
常陸さんは、隣に座る宗像さんに対し軽蔑の色を隠さず、横目で見ていた。なるほど、これがジト目というもので、わたしも宗像さんに対してこういう目をしているのか。
「お前、そこまで女子高生に振り切れた性癖だったか? 完全に危険人物の発言じゃねえか。……大丈夫か? 真名ちゃん。こんな変態と二人きりの職場でよ」
「アルバイトではありますが、仕事ですから」
それに何より、口で言っているだけで、宗像さんはわたしに女性的面での興味はない。恐らく、直感的に、だけれど。
「はあん、随分とまあ、達観してる高校生だな。カッチリしてるっつーか。ま、あれだ、何かあったらお巡りさんに言ってくれ。速攻で手錠掛けっから」
「お気遣い痛み入ります」
「……おい宗像、何なんだよマジで。超いい子じゃねえか。勝ち目がなさ過ぎて死にたくなってきたぞ」
「だろ? 真名君はいい子な上に頭がいい上に可愛い上にジト目クーデレ少女なんだ。僕は生まれてこのかた、こんなパーフェクトな存在を見た事がない。貴女が神か、と問いかけたいくらいだ」
「どこにデレがあるんだよ? 庭で騒ぎ立てるクツワムシを見る目をお前に向けてるぜ」
「虫愛づる姫君なのさ」
「常陸さんは、本日はどのような御用ですか?」
二人の立て板に水な、まったく内緒話になっていないコソコソ話を断ち切り問いかけると、
「ん? ああ、あれだ。自己紹介と、殺人事件のお誘い」
軽く、簡単に、常陸さんはそう言った。
緊張感の欠片もなく、クッキーをぱくつきながら。
この、口調と内容が一致しない言葉に、わたしは少なからず当惑した。
確かにわたしは、真名ひいらぎはそのためにここにいる。しかしこうも容易く言われると、現実味に欠けるものがあった。そんなわたしの心を見透かすように、常陸さんは言う。
「あたしは仲介役だ。斡旋係だ。通常、こういう役ってのはどちらの組織にも属さないべきだとも思うが、あたしはどっかに属してるって意識の低い不良警察官だからな。
そんな不良警察官は、仕事じゃない限り、こんなところにわざわざ来ねえ。あたしが来たってことは、楽しいお仕事があるってことだよ、お嬢ちゃん」
恐らく経験に裏打ちされている、真剣味と諧謔味が混ぜ込まれた重い挑発に、わたしは返す言葉を持たなかった。この人も、宗像さんと同じ、スペシャリストなのだ。そう感じた。
……のだが、
「常陸君、三日前にもここに来たよね。『ケモぽん』のデータ見せろってさ」
「おま、宗像、てめえ余計なこと言いやがって……! 『カッコイイ仕事のできる不敵なお姉さんキャラ』に再チャレンジしてたのに!」
「…………」
何かもう、すべてが台無しだった。常陸さんを見つめるわたしの目は恐らく、先ほどの常陸さんと同じ色を帯びているだろう。
「だー、もういいや! やめやめ。カッコつけようとしたよ! 一本取ろうって下心があったよ! 悪いかこの野郎!
とにかく! こいつには年俸で給料渡してるんだ。いつまでものんびりゲームだけさせてるわけにもいかねーってことだ。……つっても、今回の事件の斡旋はどちらかと言うと、こいつの希望を叶えた形なんだけどな」
言って、常陸さんは親指で宗像さんを指すのだった。
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