なにやら色々と能力が付与されていた件
指をさされた課長には何かしらの適性があるということか。本当に最近はやりの異世界転生系の物語になってきた。
そもそもが、課長はらしくもなく、車にひかれそうになった私を助けようとして巻き込まれたわけで、ボーナス的な何かが付いてきてもおかしくなかろう。見た目が美少女になるのはボーナスなのかどうかはわからないけども。
「魔法、という言葉はきいたことあるかの?」
「あぁ、リラさんから少し。私たちの世界ではフィクションとして存在します」
「
「なんとなくは」
「まったくわからん!!」
頷く私と、頭を抱える課長。なんとなくそうなりそうな気がした。課長はサブカルチャーとか疎かったはずだから、理解が出来ないということか。これがなんの差なのかと言われたら時代の差としかいいようがない。
「まぁ、見る方がいいだろう。こやつらが精霊じゃ」
指をパチンと鳴らす。
マスターの目の前に四つのぼんやりとした光が現れる。それぞれが赤、青、茶、緑に発光をしている。大きさはペン先ぐらいのもの。これが、精霊たち。
「なんと……」
「こやつらに気に入られるかどうかが大切なんじゃ。どれ、精霊達よ、行ってみよ」
マスターの声に反応して精霊はツラツラと飛び散るとそれら全てが課長の方へと向かっていく。マスターが言っていた適正っていうのは……。
「やはりの。石野といったな。お前は精霊どもに愛されとるらしい。魔力も人並み以上にある。あとは、魔法のプロセスさえ覚えれば魔法が使えるじゃろう」
「あの……精霊達に愛されるって珍しいことなんですか?」
「そもそも魔法適正があるのはこの世の半数にも満たない。そして、魔法が使える人間の多くは一種類がほとんどじゃ。ワシも四種使えるが珍しい人物だと言える」
「なるほど……」
「わっ、わっ!? これ、ど、どうしたら?」
課長は周りをグルグルとする精霊に戸惑っているようだった。
見た目だけで言えば少女が可愛らしくあたふたしているように見えるが、中身を知っているため素直に可愛いとは思えない。知らぬが仏、なるほど、よく言ったものか。いや、元の意味とは違うが。
「慣れれば頭の中だけでやりとり出来るが……最初のうちは口に出すと良い。それ、イシノ。
「で、でい?」
ポカンとした顔で聞き返している。そばで聞いている私の方が恥ずかしい。そういえば、課長カタカナ語に弱かったな。異世界でも聞きなれない言葉に戸惑うのは仕方がないか。
「デイ・ランプ、じゃ」
「で、
しどろもどろに言葉を発する。
すると、目の前に小さなあかりが白く輝く。声も出ずに驚く私達。そうか、これが、魔法。
「魔法とは己の想い考えを定義して実体化させるものじゃ。どういった思いを使えばよいのか、どう表現したいのかを頭で思い浮かべそれを実際の事象として精霊たちが起こしてくれるのじゃ」
「……あれ?」
「ん? どうした、シノベ?」
私は一つの違和感を抱き思わず言葉が漏れる。もちろんの如く聞き逃すはずもなくマスターは私に視線を合わせて尋ねてくる。
「いえ、頭のイメージの実体化、ということはそれを思い浮かべる必要があります。しかし、今の課長……石野さんは言われたままに言葉を動かしたのみ。こんな事象が起きるなんて考えもしなかったはずです。なのに、魔法が発動したのはなぜですか?」
「ほぉ、そこまで発想を飛ばせるか、なるほどの」
何かに納得したように笑うマスター。
アニメの世界なんかでは、当たり前に誰もが使える魔法がある。深く考えたことはなかったが、それは魔法が学問として存在し全く同じ事象を起こすことが出来ると判明をしているからだ。
しかし、この世界において魔法はイメージの実体化を意味しているのならば、術者と同じ魔法を扱うなんて不可能なはずだが。
「いったじゃろ? 精霊たちは己の好みによって魔法を貸し与える、同一の思念体じゃ。思念体とはいっておるが、どちらかと言えば神秘的な生命体といった方が正しいの。つまり、魔法は記憶されてゆく。この魔法は大昔に定義されたものじゃ」
「なるほど、アップデートされていくと……新しい魔法を作り出す方が難しいんですね」
「まあな、ほとんどの魔法は定義されてあるからな。似たような魔法だと精霊が嫌がり否定することもある。魔法使いとは精霊のご機嫌とりも大切なのじゃ」
「……つまり、どういうことで?」
首をかしげる様子は可愛らしいのに中身を想像すると。というか、本人は気づいているかどうかはわからないが所作が女性らしくなっている。
「私たちの世界に例えるなら特許ですかね。魔法を発明すること自体は出来ますが、大半は特許庁で却下されます。そして、特許は公表されていますので、適正な方法を使えば扱うことが許される、という感じですかね」
「わかったような、分かっていないような」
多分、分かっていないんだろうな。私も理解をしたようなつもりになっているだけなので似たようなものだけど。
「とりあえず、魔法の適正がイシノさんにあることは分かりました。しかし、私の方は?」
「そうじゃのう、身体能力はどうじゃ? もしかしたら、こちらの世界に来た際に変わっているかも知れん。こやつが女になっていたようにな」
「なる、ほど」
一つつぶやきトントンとジャンプする。
身体が……確かに軽い。
思いっきり踏み込んで跳躍する。
「きゃっ」
自分の想像をはるかに超える跳躍に自分自身が驚く。バランスを大きく崩してしまうが、なんとか宙をけって感覚を取り戻し昔何かで見たことがある三点着地をする。
少しだけ体にズシンと痛みがやって来たがそこまで大きなものではない。
「……篠部くん、そんなに身体能力高かったのか」
「いえ、ある程度はありましたがここまででは。これが、この世界へ来ての一番の変化ですね。にわかには信じがたいですが、課長がその姿になっている以上、何が起きても不思議ではありません」
膝を払いながら立ち上がる。うん、これなら私でもなんとか戦えそうだ。ギルドの一員になっても問題なさそうだけど、マスターさんはこれも見越していたのだろうか。
「後はそうじゃのう、お主らの偽のプロフィールも考えねばならんな」
「偽の……? やはり、異世界から来たというのは伏せておいた方がいい感じですか?」
「じゃな。結果は因があるからこそ現れる。結として転生があるのなら、因を作ったやつもおるじゃろう。それが、自然の何かであったり、故意であっても悪意が無ければ良いが……そうとも限らん」
「そうですね。わかりました。そういえば失礼ですがマスターさんのお名前はなんですか? この世界の名前を参考にしたいのですが」
「名乗ってなかったのぉ。我が名はユリじゃ」
「ユリ、さん。それに、リラさんですか。でしたら、課長は男女どちらでも使えそうなヨシ辺りでどうでしょうか?」
「ヨシか、なるほど。それでいいんじゃないか」
「年齢はそうですね、18でいかがでしょうか? 見た目的にもそれぐらいです」
「わかった。では、シノベ君は、サキ、辺りでどうかな?」
「そうですね、では、マスターさん」
「マスターにさんはいらん」
「マスター、私たちはヨシ、18歳と、サキ、22歳とさせていただきます」
「あれ……シノベ君は確か23————」
「課長、セクハラです」
「なんでぇ!?」
女性の年齢に関する話をするのはタブーだと今時小学生でも知っていることだ。それを疑問に思うことの方が不思議だ。私は何も間違っていない。
「まぁ、細かいことはどうでもよい。ともかく、こちらの方でギルドにエントリーさせてもらうぞ」
「はい、よろしくお願いします」
「えぇ……、ま、まぁ、とにかくよろしくお願いしますね」
課長はまだ何か言いたげな顔をしているが特別気にする必要性などないだろう。何が問題だというのだろうか。現に課長だって年齢を偽っているわけだ。
「では、これからよろしく頼むぞ、ヨシ、サキ」
「「はい!」」
マスターは目を細めて笑った。
課長と異世界転生したら課長が美少女になっていた件 椿ツバサ @DarkLivi
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