マスターに色々見抜かれた件

 ひとまず、情報をまとめるとここはティームと呼ばれる星であり、かつ魔法やクリーチャーと呼ばれるような人ならざるモンスターが存在するらしい。そして彼女はリラという少女でありギルドと呼ばれる自警団に所属をしているらしい。

 リラさんにお願いをして、偶然予備に持っていた彼女のジャージを課長に、彼女が現在来ているジャージを上着を私が着ることになった。曰く、森の中なので何かあってもいいように少し多めに着込み、予備も用意していたらしい。見た目に反して素晴らしい危機感だ。

「では、この裏口から入って下さい。うちのギルドマスターなら何か知っているかもしれませんから」

「ありがとうございます。しかし、本当に私たちのこと何も伝えていないのにいいんですか?」

「えぇ、構いません。むしろ、何かあなたたちが抱えているのであれば、わたしが知ることで余計にわたしが危ない目に合うかもしれません。ギルドマスターならなにがあっても大丈夫でしょうし」

「ありがとうございます」

「ボクからも礼をいうよ」

「いえいえ」

 ふふっと小さく笑ってみせた。

 リラさんは私達がこの世界の存在ではないということを、なんとなく理解した後、私たちをギルドマスターの元へ案内すると申し出てくれた。しかも、それ以上に私達からの情報をとろうとすることもせずに。話の早い人で助かる反面、ギルドマスターさんのもとに連れて行って迷惑じゃないのかとも疑問に感じた。しかし、リラさんは問題ありませんの一言で答えてくれたためありがたくその誘いに乗ることにした。もちろん、彼女たちがもしかしたら悪い人間であるかのせいもあるが……もとより一度なくなっていた可能性の高い命だ、その時はその時だ。

 ちなみに、課長は異世界転生? と頭に疑問符を浮かべ続けたままだった。

 裏口から入ると薄暗い廊下がしばらく続いた。しかし、すぐ近くが待合室のような形になっているのか楽し気な笑い声が聞こえる。そこを横切りつつ階段を三階分ほど登りその奥にある部屋の前にたどり着く。特別そこが豪奢な様子でもない。

「ではいきますね……。マスター、よろしいでしょうか?」

 ノックをうつリラさん。ガサゴソと中から音が発せられた後声が響いた。

「なんじゃ? その声はリラだね。入っていいよ」

 女性の高い声が聞こえる。マスターと言っていたからてっきり男性をイメージしていたが女性だったとは。しかも、なかなかに若そうな声だが。

「わかりました。失礼します」

 目線で一緒に入ることを促す。それに頷いて返す。

 キィーという少し古臭い音を立てながら扉が開かれる。そこにいたのは、大きな机の上に座っている見た目幼い少女であった。

 黄色い髪をツインテールにまとめてこちらに満面の笑みを浮かべている。

「さて、リラ、今回の要件はそこの二人に関することじゃな?」

「はい、そうです」

 その会話の様子からマスターさんは私達がすでにスタンバイしていたことに気が付いていたことに驚く。さらにはリラさんもそれを当たり前のように受け止めていたことからマスターさんの実力が分かる。

「ふむ、何やら込み入っているようじゃな。リラのことじゃから、お主も何も知らいのじゃろ?」

「その通りです。まずはマスターに判断していただこうと思いまして。ですので、私の方からはこれだけお伝えして下がりたいと思います。どうやら彼女たちは、異世界転生をしてきた、らしいです」

 そして一礼をすると彼女は部屋を出て扉を閉めた。

 それを見届けた後マスターさんはパチンと指を鳴らす。

「さて、異世界転生か。面白いのぉ。名前はなんていうんじゃ?」

「……篠部です」

「石野……と申します」

「シノベにイシノ、か。少なくともこの付近にはない名前じゃな。ところで隠し事はよくない。その名前にはまだ続きがあるようじゃの」

 ドキリとたじろぐ。何もかもお見通しということか。

 下の名前を告げると課長の性別も明らかになる可能性も高いと考え名字だけにしたのだが。いや、この世界では私達の名前で男女は特定できないかもしれない。それにかけてみよう。課長とアイコンタクトを取り意識をすり合わせる。

「私は美咲みさきと続きます」

「ボ――――私は、義人よしひとです」

「ミサキにヨシヒトか。やはり聞かぬ名じゃな。ところで、隠し事はよくないといったじゃろ? のお、ヨシヒト。お主が今、一番秘密にしておるのは、なんじゃ?」

「……どうやら、あなたには全てお見通しのようですね」

 課長は、マスターの言葉を聞きあきらめたような笑みを浮かべる。対して私はというと見た目とはんした、底知れぬ恐ろしさに驚きを禁じ得なかった。

「篠部君、世の中には若くして社長となり、大きな企業へと導く人材もいるんだ。同じように見た目に反して、なんて存在もいる。珍しいことじゃないよ」

「それは、そうでしょうが……」

 ――――そもそも彼女の実年齢が見た目通りの幼さと決まったわけでは……。

「ふむ」

 背中にゾクリと寒気が走る。マスターに鋭い目で射抜かれていた。まさか、年齢のことを考えたからか。恐ろしい。

「まあよい。して、お主らのこと、もう少し詳しく聞かしてくれるかの?」

「はい。ボクは石野義人といいいます。本当は男で実年齢も48です。それがこちらの世界……、ティーム、でしたっけ? に迷い込んでこの姿になっていたという形です」

「私も似たようなものです。ですが、課長……石野さんとは違い見た目の変化はほぼありません」

「なるほどの。ちなみに異世界転生といっておったが、お主らはどこからきたのじゃ?」

「ボクらは地球、と呼ばれる惑星の日本という場所です。車――――あー、高速で移動する四輪の乗り物にぶつかりそうになって、気が付いたらここに、という形です」

「なるほどな。ニホンにチキュウのぉ……。初めて聞く単語じゃな。じゃが、面白い。お主ら次第じゃが、しばらくこのギルドに在籍してみないか?」

 何を納得したのか全く分からないが、唐突にマスターはそういった。ギルド……町の自警団だといっていたが、そんな簡単に入れるものなのか。

 マスターは何かを試すかのごとくこちらを覗いている。

「課長……どうしましょうか」

「うぅーん、確かにどこか別のところに行く当てがあるわけでもないけど……ギルド、ギルド……。そんな能力もないし」

 何が問題かといえばそこだ。課長は姿かたちが変わりすぎている為何とも言えないけど、私は学生時代に陸上部をしていた程度。社会人になった今でもランニングは趣味でしているが、そこまで運動に自信があるわけでもない。自警団というのだからある程度運動などはできなければならないはずだ。

「何を悩んでいるのかといえばそういうことか。確かにお主らが想定している通り犯罪者の制圧などもあるが、リラは主に調剤を仕事としておる。むしろ、適正もなしにそのような仕事を割り振ればフェアリースターの名に傷がつく。お主らの世界では新入りにいきなり重大な仕事を任せるのか?」

 言われてみれば確かにそうだ。思わず黙り込んでしまう。

 いや、でもそもそもが適正のある会社なり、法人なりに入社するわけだが。そこがないのがおかしいといえばおかしい。

 まぁ、異世界と地球の違いなんて考えだしたらキリがないが、逆に言えば共通している部分というのが非常に多くあるともいえる。

「それに、全く適性のない人物を無暗に誘っているわけでもない。特にお主、なかなか面白いことができそうでな」

 マスターはスッと指をさす。そしてさされた本人は。

「ぼ、ボクですか?」

 ポカンと口と目を開けていた。

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