7-3 展開していく事態

     ◆


 大きい、と思わず呟いてしまうほど、超大型戦艦は近づいてくるとより大きさがわかる。

 戦闘艦は超大型戦艦と並び、固定されたようだ。

 ヨシノがいる発令所のメインスクリーンで、灰色の髪をした男性が大きく映り、ネルソン・メイズ元大佐と話し始める。

 その中で、これからオーシャンを迎える予定だ、という言葉があった。

 うまくすればオーシャンと出会えるかもしれない。

 ヨシノは自然と胸が高鳴り、そんな自分がやや不安だった。

 こんな冒険に必死になるとは。

 オーシャンとその仲間たちはこれからこの座標へ来る戦闘艦に乗っているようだ。

 話は先へ進み、今、ヨシノが乗り込んでいる戦闘艦はこの場で解体され、超大型戦艦に組み込まれるらしい。艦に艦を組み込むなど、そんなことはヨシノは聞いたことがないし、できるのだろうか。

 ただ、メインスクリーンの中の男性は、無人外骨格と人が乗り込む強化外骨格を二十機出す、と言い始め、ネルソン・メイズ元大佐も承認している。

「そこにいるのは?」

 メインスクリーンの中の男性がヨシノの方を見た。ネルソン・メイズ元大佐が、勉強のために来ている若者です、と応じた。

 灰色の髪をした男性は無言で頷いて、「直接、会おう」とこれはネルソン・メイズ元大佐に言って、通信は切れた。

 先ほどのネルソン・メイズ元大佐の言葉に引っかかりを覚えるのは、考えすぎだろうか。

 勉強中……?

 ネルソン・メイズ元大佐が指示を出し始め、どうやら戦闘艦の乗組員は超大型戦艦へ全員が移乗するらしい。本当に戦闘艦を解体するのだと考えるしかない。

 ヨシノは空気が慌しくなった艦内で、とりあえず、自分の荷物をまとめた。その途中で、よく世話を焼いてくれる男性、クルンがやってきた。彼はヨシノが戦闘艦に乗り込んだ直後に仕事を教えてくれた相手だ。

「荷物は少なそうだな。向こうには一応、部屋があるらしい」

 そう言っているクルンも、背囊を背負っている。ヨシノの同室の乗組員はすでに片付けを終えて出て行ってしまい、部屋は閑散としているように見えた。

「どこか、名残惜しいです」

 ヨシノが思わずそう言うと、俺もだよとクルンが笑う。

「行こう、ヨシノ。向こうではもう会えないかもしれないが」

 思わずクルンの顔を見ようとするが、もう彼は背を向けて通路へ出ている。

 クルンも、もしかしたらネルソン・メイズ元大佐も、ヨシノに警告してるのではないか。

 これ以上、先へ進めば、戻れなくなる、と。

 しかし逃げ出す方法がない。

 携帯端末はずっと身につけている。しかし武器はない。隠し武器もない。

 格闘技は不得手だし、とても元軍人には勝てないだろう。

 しばらく立ち尽くして、なけなしの覚悟を決めてからヨシノはクルンの後を追おうとした。しかし、もうクランの姿は見えないのだった。

 すでに戦闘艦はパイプで超大型戦艦と繋がれている。乗り移った超大型戦艦の内部は、思ったよりも手狭で、戦闘艦と大差ない。

 先を行くクルンにやっと追いつき、彼は何の表札もない部屋の前でヨシノを待たせると、一人で中に入った。そのまま待つと、こちらはしっかりと連邦宇宙軍の制服を着た青年がクルンとともに出てきた。

「きみがヨシノ・カミハラだね? 僕はバスと呼ばれている。よろしく」

 手を差し出されたので、それを握り返す。

「ヨシノ・カミハラです。よろしくお願いします」

「部屋に案内する前に、見物しようか」

 どうやら目の前にある部屋はバスの執務室らしい。どんな役目を持っているのだろう。

 バスが身軽に通路を移動し始める。超大型戦艦の中にはほぼ地球と同等の重力が働いていた。そのせいでヨシノはバランスを取るのに苦労していた。

 重力のことを訊ねる前に、バスの方から「この艦は特別で常に重力が働いているんだ」と教えてくれた。

 艦の構造を維持するための重力だろうが、ヨシノがそのことを知ってるとはつゆとも知らない様子だった。

 当たり前だ、とヨシノは表情を一層、引き締めた。油断は禁物。

 途中の交差点でクルンは逆方向へ進むことになり、挨拶の後、未練もなさそうに離れていく。その最中から視線を外し、歩き続けるバスの背中をヨシノは見た。

 まっすぐに背筋を伸ばして歩く姿は、やはり軍人だ。

 それから案内されたのは銃座の一つで、無人だった。見物したいだろ? とバスは微笑んでいた。

 そこから士官用のバーを覗き、食堂を見て、居住スペースに行き、そして機関室は扉の前に行っただけで中には入らず、その後に格納庫へ出た。

 見たところ、五機の強化外骨格に人が乗り込み、外から運ばれてくる資材のようなものを運び込んでいる。すでに戦闘艦が解体されているらしい。

「こっちだ、ヨシノ」

 運ばれる資材があまりにも綺麗なのが気になって、もっとよく見たかったが、バスは先へ進んでしまう。

 最後に案内されたのは索敵のための部屋のようで、ヘルメットを被った人々が、全部で十人ほど半円形にブースに並び、頭上には星海図がある。

 全部で十スペースほどが把握されている。

 反射的にチャンドラセカルを探したが、もちろん、いるわけがない。

 まさかヨシノを追跡していないことはないだろうが、ここでチャンドラセカルが察知されるとなると、ヨシノは最後の最後の逃げ場を失う。

 むしろ、仲間をまとめて死地に招き入れたことになる。

 こっちだ、と肩を叩かれ、ヨシノはそろそろと息を吐きながら部屋を出た。

 出たところで、しかし三つの銃口がヨシノを出迎えたのだった。

 拳銃を構えているのは、しっかりと武装した体格のいい男たちで、どことなくダンストン少佐を連想させる。海兵隊、そしてサイボーグなのだ。

 ヨシノはすぐに両手を挙げた。

 壁に叩きつけられるくらいは覚悟したが、彼らは動かず、ヨシノがいぶかしんだ時、ゆっくりとした歩調でその人物がやってきた。

「きみがヨシノ・カミハラ?」

 やはり連邦宇宙軍の制服を着ているが、細身で背が高い。年齢は三十代だろうが、襟章は少佐だった。

「話をする必要がある、協力してくれるかな」

 その少佐、あるいは元少佐の言葉にヨシノはただ、小さく顎を引いた。

 腕をそっと取られ、背後に回され、手錠が手首を完全に固定した。



(続く)

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