11-3 実戦訓練
◆
訓練基地シチリアには二隻の訓練艦が待機していた。ムラカミとナオキである。
司令部が提案した訓練は、チューリングの乗組員をこの二隻に分けて、実戦的な訓練をせよ、というものだった。
意味不明な訓練ではあるが、ヴェルベットが気にしたのは、ユキムラ准尉が乗り込んだ方が圧倒的に有利、ということである。
しかしこれは思わぬ形になった。
ユキムラ准尉は訓練艦に乗らず、訓練基地シチリアで全体の統括をするというのだ。
艦長の役目を奪われた気もしたが、ムラカミはヴェルベットが、ナオキはレイナ少佐が指揮することも、管理艦隊司令部が決めた。
訓練期間は三日しかなく、ユキムラ准尉はその間に十二回の戦闘を実戦さながらに設定しているようだ。
それも索敵から始まるものだった。
ムラカミの発令所の艦長席で、ヴェルベットは唸るしかない。
チューリングと比べれば、あまりに手狭で端末も頼りなく見える。
一世代とまではいかなくとも、十年前には退役するような艦で、管理艦隊がこれを訓練艦とするのは、いかにも貧相で、資金面の弱さが感じられた。
何はともあれ、まずは訓練である。
二隻の訓練艦は指定の座標へ移動し、あとは戦うのみだ。
攻撃の全ては仮想のそれで、実弾は使われない。
状況開始からほんの五分で、まずムラカミがナオキを捕捉した。当然、ナオキの方でも把握してるはずだ。
攻撃に有利な座標を伝うようにして、ムラカミはナオキに襲いかかったが、ナオキは器用に攻撃を回避していく。
管理官は、レポート少尉とジネス少尉がレイナ少佐の指揮下に、ロイド大尉とアリーシャ軍曹がヴェルベットの指揮下に入っている。これは訓練が半分に達したら入れ替わる。
ヴェルベットはアリーシャ軍曹に徹底的な攻撃を命じたが、ナオキは機敏に反応し、滑るようにして形だけの火線を回避した。
「自航機雷です、艦長」
索敵管理官を務める軍曹が報告する。
「背後を塞がれます」
「操舵管理官、敵艦との位置を逆転させる軌道を取れ」
「それでは旋回の最中に敵の集中砲火を浴びます!」
「他に手はない、やれ」
冷淡なヴェルベットの言葉に顔をしかめて、操舵管理官が操舵装置を捻る。
ムラカミが動いた時には、わずかに遅い。
ナオキが猛然と攻撃を浴びせ、形の上でムラカミは撃沈された。
訓練基地シチリアからすぐに連絡があり、それぞれに別の座標へ移動し、再び最初から訓練をするという。
休む間もないが、訓練の内容の検討をすぐにしなくてはジリ貧だとヴェルベットにはわかっている。
会議室にも行かず、ヴェルベットは発令所にいる顔ぶれに意見を求めたが、有意義なものは少ない。
唯一、ロイド大尉が、粘り強く受け止める手があったのではないか、と発言したのが印象に残った。
言っていることは、自航機雷を理由に敵の誘導に乗った上での逆襲ではなく、自航機雷を何らかの手段で無力化する、ということだろう。
その一方でヴェルベットが命じた、自艦を危険にさらしても逆襲を狙う、という大胆さをたしなめているようでもある。
すぐに二度目の訓練が始まる。
今度は先にナオキに所在を知られた。遠距離からのミサイル攻撃が来るのを、操舵管理官が回避しようとするが、わずかに遅い。近接防御で辛くも撃墜。
チューリングの乗組員にはなれても、管理官とは技量に差がある。
「火器管制、こちらも攻撃し、接近可能な道筋をつけろ」
返事があり、粒子ビーム攻撃が始まる。遠距離で撃ち合い、それぞれに的を外す。
距離が接近し、ヴェルベットは魚雷の発射を命じた。本来的には魚雷の方が破壊力があるが、これはミサイルでの攻撃への布石だった。
しかしどうやら、レイナ少佐には読まれていたらしい。
訓練艦ナオキがほとんど魚雷に突進するような運動をして、十分に引きつけたところで近接防御レーザーで苦もなく破壊した。
舌打ちをするヴェルベットの見ている前で、ナオキからミサイル攻撃がある表示が浮かぶ。
典型的な多弾頭ミサイル。点ではなく面の攻撃。
回避を指示し、囮装置も全て放出する。
ミサイルはそれでかろうじて的を外した。
その代わりに、ムラカミはいつの間にか敷設されていた自航機雷の群れに飛び込み、近接防御もむなしく、艦が撃破された。
思わず艦長席の上で目を閉じていた。
読まれていた。
あの副長は本気になっているらしい。普段は目立たないが、この程度の指揮はするのだ。
さすがにハンター・ウィッソンが副長にしただけのことはある。
三度目の訓練の開始座標へ向かう艦の装備を、ヴェルベットは確認した。
誰が何を意図しているかは知らないが、この訓練は意義がありそうだ。
訓練でも、ここまで自分をコテンパンにした相手はそれほどいない。
味方同士だとはわかっているが、負けたくなかった。
ましてや副長は堂々と抗弁してくるような態度をとる。
子どもの喧嘩のようだが、弱いものが上に立つのは、何かが違う。
三度目の訓練が始まる。艦を機動させながら、ヴェルベットはどうしたらレイナ少佐に勝てるか、考えていた。
考え始めたら、他のことを考える余地はなくなる。
火星駐屯軍にいた時の、実戦の記憶が滲み出すように蘇ってきた。
自分が何を得意とするか、それがいつの間にか深いところに沈んでいたのを、掘り出すような気持ちだった。
(続く)
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