第3部エピローグ

思想をかけた戦い

     ◆


 ミリオン級潜航艦二番艦「ノイマン」は統合本部の意図を無視して、同時に管理艦隊の意図からやや脱線する形で、ほとんどアドリブで任務を達成した。

 地球連邦がその成立から初めて体験することになる分裂の危機が、ここで表面化することになる。ここからは、宇宙戦争は明らかに次なる局面に入ったことを忘れてはいけない。つまり地球連邦が管理する空間を確立し、維持するのではなく、その空間の外部に存在する勢力にいかに対処するべきか、ということが重大な論点となったし、同時に、内的宇宙、思想が論点として立ち上がったことを意味する。

 これは宇宙に人類が進出した時点で予見されてしかるべきだったが、おおよその科学者はまだ成熟するには早いという見解だったようだ。技術的に、未開拓の宇宙、未知の宇宙へ漕ぎ出すには、百年を超える時間を伴う技術の進歩が必要だ、という論法である。しかし太古から、技術がなくとも、人は未開拓地へ漕ぎ出したものだ。遥かな原始に、木を削って作った舟で、人力で遥かな海を渡った誰かがいたように。

 宇宙戦争における新たなる章の最初の一ページ、それを開くきっかけは、望むと望まざるとに関わらず、ノイマンの任務による。しかしそれには何ら責任はない。また、管理艦隊に責任があるわけでもない。そして独立派勢力にも、責任はないのだ。

 宇宙戦争とは何かと問われれば、それは過去に地球で起こったような戦争とはやや趣を異にする争いであろう、と答えるよりない。宇宙戦争は、国土を広げること、あるいは国土を守ること、宗派の対立や宗教の対立、民族の対立、人種の対立などからではなく、純粋な思想を確固たるものにすること、思想を異にするものを打ち倒すこと、思想こそが重要であり、思想の攻防から始まる戦争が、宇宙戦争なのだ。

 そしてその思想は、「自由」という言葉にも置き換えられるのだった。




 ミカエル・ウェーバー・著「宇宙戦争の舞台裏」より抜粋

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