第二部エピローグ

ミリオン級潜航艦「チューリング」の真実

     ◆


 ミリオン級潜航艦二番艦「チューリング」はある種の天才集団だと見る向きもあるが、のちにハンター・ウィッソン氏が語るところには、最適な人材を組み合わせることで、まるで共鳴するようにその技能が飛躍的に向上する、とのことだ。

 ハンター・ウィッソン氏は多くを語らないが、話をしてみると面白い老人である。様々な情報に精通し、それが軍内部の人事や軍務で必要な軍艦や兵器の知識などだけではなく、一般的なメディア、それも多岐にわたるメディアの報道内容にも非常に詳しい。私は彼に地球で撮影されている映画に関して質問され、しどろもどろになった。そんな私にハンター・ウィッソン氏は嬉しそうに笑いながら、話をしていたその部屋の、まさに隣の部屋を見せてくれた。

 なんとそこにはうず高く記録装置が積まれているのだ。

 人工知能が二台あってね、などと彼は話してくれたが、人工知能が何台あろうと、ハンター・ウィッソン氏がその情報を閲覧しない限り、ハンター・ウィッソン氏は何も語れないのは自明だ。頭の中に直接、情報を圧縮して流し込むわけにはいかない。あるいはチューリングの索敵管理官なら可能かもしれないが。

 とにかく、この老人は偏執的なまでに情報収集を好むようだ。

 今後の宇宙がどうなるのか、という質問を私は期待を込めて、彼にぶつけてみた。彼は少し考え、剛毅と言ってもいい笑みを浮かべて、堂々と答えた。

 知らないね。どこにもそんな情報は上がっていない。

 からかわれたのだろうが、その時の雰囲気はやや笑うには不謹慎なほど真剣味があり、同時に深追いすることができない切実さがあった。

 おそらくハンター・ウィッソン氏はこれからの宇宙のあり様を真剣に考えていて、しかし憂うというほどではなく、心配というにはやや親身な本気さで、考えているのだ。

 別れ際に、ハンター・ウィッソン氏は不思議なことを言った。

 自分で見ても、嘘のようなものはたくさんある。

 見えない艦とかな。

 彼の部屋を辞してから、吟味する心理を深いところへ抑え込むことは不可能だった。

 嘘のようなもの、とは、ミリオン級潜航艦のことであり、しかし、本当にそれだけだろうか。




エルデン・ジャクスン 著「ミリオン級回顧録」より抜粋。

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