6-5 奇襲
◆
メインスクリーンには魚雷の接近が警告されていた。すでに電子頭脳が距離を概算で示し、命中まで二十秒、十九秒とカウントダウンが始まっている。
乗組員は帰ってくるだろうが、船がなければ意味がない。
ハンターは急いで艦運用管理官の端末の取り付き、艦長権限で起動すると、装甲のモードを変える。
魚雷があと四秒で命中する時、チューリングの装甲が新しく付け加えられた四つ目のモードを起動させた。
それはスパークモードと呼ばれる、電磁波を周囲に撒き散らすモードだ。
その強電磁波で接近するミサイルや魚雷を撹乱するという、軍人の大半からすれば無意味な機能だが、それが今、役に立った。ゴミも拾えば宝になる、かもな。そんなことをハンターは思った。
思ったが、艦が激しく揺れて、そんなことに感慨に思いを向けている場合でもない。魚雷が爆発した余波で艦が揺動するのに合わせてハンターがよろめくが転倒は避ける。
スパークモードの影響で、魚雷は誤作動で爆発したようだが、スパークモードの耐久力はあまりあてにはならない。ハンターが艦の損傷を確認している一方、電子頭脳はすでに魚雷の発射位置を予測し、スクリーンに表示している。
至近距離、〇・〇一スペースを割っている。次は粒子ビーム攻撃が来るか、それとも実体弾が来るか、ハンターには想像もつかなかったし、それは誰にも予言できない種類の難問だった。
そこへ管理官たちが発令所へ戻ってきた。ハンターも青い顔のロイド中尉に端末を譲り、自分の席へ戻った。管理官たちがそれぞれに自分の部下の点呼を取りながら、自分の仕事を始めている。
チューリングとノイマンの他に接舷していた艦船が動き始め、オスロからも迎撃が始まる。
至近を粒子ビームが飛んでいき、さすがにハンターも身をこわばらせた。
「乗組員はどれくらい揃った?」
ハンターの質問に、レイナ大尉が手元の端末を見据えて答える。
「十名程が遅れています」
「なら、構わないな。ロイド中尉、オスロに固定具を全部外すように言え。循環器を緊急始動」
「オスロの管制官が混乱しています」ロイドが振り返らずに答える。「こちらから緊急事態を宣言し、手順を省略させます」
「時間がない。機関の始動はこちらに任せてくれ」
驚いたようにロイドが振り返るが、ハンターは身振りで作業に戻らせ、自分の端末を操作する。受話器を取り、肩で耳に押し付け、両手は簡易的な操作パネルを操っている。
「親方、何があったんです?」
受話器からのんびりとしたウォルター中尉の声がする。あまりにのほほんとしているので、ハンターも少し心が落ち着いた。
「敵襲だよ。循環器を緊急起動する。そっちで暴走しないようにチェックしてくれ。こちらは忙しくてな」
「緊急起動ですか。緊張しますが、親方を信じますよ」
受話器を戻し、機関士の間では「過呼吸」と呼ばれる手順を実行する。
燃料液が極端な速度で循環し、ほとんど脈拍〇から次の瞬間には三〇、次には七〇まで跳ね上がる。手元で微調整をして、その爆発的な出力の上昇は九三の数値で安定する。
「ロイド中尉、オスロの連中はまだか!」
「人工知能が手間取っています」
ハンターの決断は早かった。というより、オスロの側にそこまで多くを求めていなかった。
自分の身は自分で守るのみだ。
「カード軍曹、艦を無理やり、オスロから切り離せ。出力全開で係留装置を引き千切れ」
やや常識を逸脱する命令だったが、カード軍曹はその手の対応には慣れていた。はいよ、と軍人らしからぬ返事をして、操舵装置を勢いよく捻る。
巨大な構造物がねじ切れる音がかなり大きく響き、チューリングが痙攣する。
「頑丈ですぜ、艦長」
「ザックス軍曹、狙えるか」
照準装置をすでに手に取っていたザックス軍曹が、音もなく引き金を引いた。一度、振動が艦を揺さぶったかと思うと、慣性が働き、メインスクリーンの中でチューリングはオスロから離れていく。
「お見事」
ザックス軍曹とカード軍曹が手を伸ばして拳を触れ合わせる。
「まだ終わっちゃいないよ」ハンターは素早く指示を出す。「ユキムラ曹長、敵を捕捉しろ。撃破する必要がある」
「了解です。艦長。サーチウェーブを発信する許可を」
「良いだろう」
即座にコーンと高い音と低い音の奇妙な和音が響き、発令所の誰もが無意識に口を閉じた。
「捉えました。座標は三三−五一−九四です。敵艦から自走機雷がばらまかれています。誘われてます」
ユキムラ曹長の思考を反映し、立体映像で周囲の状況が判明する。露骨な自走機雷を回避すると、粒子ビームか実体弾で狙い撃ち、という寸法らしい。しかも敵艦は後退を始めていた。
しかし相手はどうやら一隻で、戦力的には連邦宇宙軍が圧倒的に有利だった。
もっとも、相手が準光速航行で離脱すれば、捕捉はやがて不可能になる。
速攻を仕掛ける、とハンターは決めた。
「カード軍曹、自走機雷の隙間に飛び込め。ロイド中尉、敵はどちらで来るかな。粒子ビームか、実体弾か」
「粒子ビームでしょう。自走機雷をいざという時に狙い撃って誘爆させることができる」
はっきりと答えるロイド中尉を信頼することにした。
「いけ、カード軍曹」
「アイサー。うまくいったら、拍手を頂戴したいね」
グンとチューリングが加速し、自走機雷の真っ只中へ飛び込んでいく。
(続く)
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