水晶の瞳(旧)

雨世界

1 ……お願い。泣かないで。

 水晶の瞳


 プロローグ


 ……お願い。泣かないで。


 水晶 中学二年生 女の子 


 真珠 中学二年生 男の子


 貝殻 迷子の子供 男の子


 本編


 デートだよ。楽しいね。


 フラワーパーク 夢と希望と愛の国 (恋人同士のお客様には、『特別なプレゼント』があります。入り口で係りの者に申し出てください)


 そんな可愛らしくて甘酸っぱいキャッチフレーズの書かれた、(そして、いらないサービスのある)とても恥ずかしい名前の大型施設のファンタジー風の装飾のなされた立派な白い門の前で、真珠は一人で、さっきから30分くらい立ちっぱなしのまま、一人の知り合いの女の子のことを、ずっと待っていた。

 隣を歩いて通り過ぎていくのは、幸せそうな家族連れと若い恋人たち。

 そして、とても仲の良さそうな親友同士と思えるような、高校生や中学生くらいの女の子の集団たち。

 みんなすごく幸せそうな顔をして、その白い門をわくわくしながらくぐっていった。

 あまり楽しそうじゃない顔をしているのは、真珠一人だけだった。


 それもそのはずで、真珠は遊園地という場所があまり好きではなかった。

 いや、遊園地に限らず、人の多い場所は苦手だった。

 だから普段であれば、真珠は絶対に遊園地のような場所にくることはないはずだった。

 その真珠がなぜ、一人でフラワーパークという恥ずかしい名前の、真珠の住んでいる地方にあるあまり規模の大きくない、知名度の低い、地元の人しか名前を知らないような遊園地の白い門の前で、こうして待ち合わせをしているのかというと、それには深いわけがあった。


 真珠が待っている知り合いの女の子は真珠と同い年の中学二年生の、真珠と同じ中学校に通っている、真珠とは違う教室の女の子で、名前を水晶と言った。


 水晶と真珠は、小学校のある時期まで家が隣同士で、いわゆる幼馴染の関係だった。(水晶の家族が同じ街の違う場所に引越しをしたことで、家は隣同士ではなくなった)


 ある日、水晶が放課後の教室で真珠に、「あのさ、真珠。実はお母さんから、このチケットをもらってさ。二人分あるから、良かったら真珠くんと一緒に遊んできなさいって言われたんだけど、……どうする? 一緒にいく?」とちょっとだけ照れた顔をして真珠に聞いていた。

 真珠は恥ずかしいし、遊園地も好きではないので最初、その誘いを断ろうと思った。

 でも、真珠は、「わかった。いいよ。遊園地に行くのは、今度の日曜日でいいかな?」と水晶に言った。

 水晶はその真珠の言葉を聞いて、「えっ」と言って、本当に驚いたという顔をした。(水晶本人は、どうやら真珠が断ると思っていたようだった)


 そんなことがあって、二人は日曜日の今日、隣の街にあるフラワーパークの白い門の前で待ち合わせをしたのだった。


 真珠が水晶の誘いを受けたのには理由があった。

 それは最近の水晶の様子がどこかおかしいと思っていたからだった。


 その理由を知りたいと真珠は思っていた。

 もしなにか悩み事があるのなら、自分にできることなら、水晶の悩みの相談に乗ってあげたいと思ったのだ。


「お待たせ」という声がした。

 真珠が声のしたほうを見ると、そこには見慣れた中学校の制服姿ではない、私服姿の水晶がいた。


 ……暖かい三月の春の風が、二人の周囲を吹き抜けた。

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