オレといちごのショートケーキ
ぽちこ
オレといちごのショートケーキ
オレとあそこのショートケーキの出会いは何歳の時だろうか。
はしゃぎながらケーキを食べてるこの写真は3歳だな。
このTシャツ、3歳の頃のオレのお気に入り。
写真はだいたいコレ着てる。
口のまわりはクリームだらけで、ケーキのお皿はグチャグチャ。
もう少しきれいに食べろよ!
でもこの顔。
見てよ、3歳のオレを。
超いい顔してんだよね。
嬉しそうに食べやがって。
母さんに連れられて行ってたスーパーの隣にあるケーキ屋さん。
入ってすぐ手前、向かって左側の下の端にいちごのショートケーキはいつもある。
ここが定位置なんだろうな。
5歳くらいまではちょうど目の高さ、オレの目の前にいちごのショートケーキがたくさん並んでて、ショーケースに顔押し付けて「美味しそう!」って。
母さんに「ガラスが汚れるから離れなさい!!」ていつも怒られてた。
真っ白なクリームの上に乗っかる真っ赤な
いちご。
考えただけで口の中が甘酸っぱくなる。
そして、小学校6年生のオレは1人で初めてそのケーキ屋さんへ行った。
何度も何度も母さんに連れられて行ってるケーキ屋さん。
ここのショートケーキがオレの1番なんだ。
でも今日は母さんはいない。
そう。
12歳の母の日が、
オレの「ケーキ屋さんデビュー」だ!!
言わば「初めてのおつかい」状態。
1週間前からソワソワソワソワ。
「お母さんにあのショートケーキをプレゼントする!」
12歳のオレ、かわいいヤツだ。
大きく深呼吸して、店に入ったあの時の緊張感。
忘れられない。
コンビニやスーパーとは少し違って、大人だけがいくお店っていう雰囲気の中に入って行く。
いつものよーく知っている店員さんで、ドキドキが少し和らいだ。
おおっ!オレのショートケーキが
(今日は母さんの分を買いに来たんだけど)、いつも以上に美味しそうに見える。
オレは食べられないんだと思うと、尚更ショーケースの中で定位置にたくさん並んでる、母の日バージョンってことで1つ1つに小さなピンクのカーネーションのピックがつけてあるいちごのショートケーキが特別なモノに見えた。
残念ながら、オレの分も買うお金は財布の中にはなかった。
じっとケーキを眺めていると、
「お決まりですか?」と優しいいつもの声。
「ショートケーキを1こ下さい」
「はい!以上でよろしいでしょうか?」
「は、はい、よろしいです!」
オレはやっぱり緊張していた。
手際良く箱に詰められたケーキはあっという間にオレの手に。
「ありがとうございます!気をつけて帰って下さいね」
と店員さんに優しく言われて
「ありがとうございました」と頭を下げてお店を出た。
ちょっと大人のような扱いを受けた感じがして気分が良かった。
帰ってすぐ母さんに黙って差し出した。
「え!何?どうしたの?」
そう言いながらウキウキしてるのが分かった。
小さなケーキの箱をそっと開けてる。
「うわぁ!」
にこにこしている母さんを見て、誇らしいような照れくさいような。
「ありがとう!」
って言われても
「あ、う、うん」
て答えるのが精一杯。
なんて言えばいいか分からなかった。
ただ、オレもやっぱりショートケーキが食べたかった。
後から親父に
「母さんな、ウルウルしながら、嬉しいって言いながら食べてたぞ!」
って聞かされたけど、その時は「ふーん」て感じで、ただただショートケーキを自分も食べたかったな。という記憶。
あれから15年。
今でも実家に帰る時、前もって連絡しておくと、母があのお店のショートケーキを買っておいてくれる。
変わらず、ふわふわのスポンジと、甘さが程よい上品な生クリームといちごの酸味の絶妙なバランス。
知っている味に安心する。
腕の中でスヤスヤ眠る息子を眺めていて、思い出したあの「初めての母の日」
オレは自分からリクエストしようかな。
「父の日はいちごのショートケーキをくれ」って。
甘いケーキの味を想像していたら、
嫁が「ニヤニヤして気持ち悪い」って。
「早く2人目作ろうよ」
「え?なに?そーいうこと考えてニヤニヤしてたの?」
「まあね」
娘にケーキをプレゼントしてもらうってのも悪くないな。
終わり
オレといちごのショートケーキ ぽちこ @po-chi-ko
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