第2話 宮本真乃介は語る【髪型編】

校則 それは社会の縮尺とも言うべき学校の中に存在するルール

制服の丈や裾を長くしたり短くする改造行為やシャツ、ズボンを着崩して着用するのを原則禁止にしたり、廊下や教室内を必要以上に騒ぐことを咎めたりすることもあれば、男女生徒間に不純交際等を禁止にすることもある。

現に俺のクラス内で不純異性交際で両者停学処分と反省文の提出を言い渡された者も居た

俺としても出来た背景も踏まえれば致し方がないのだろうが、近年どうも頭を傾げる事をよく耳にするのである。



「…ニノッチよ、女性のうなじに性的興奮を覚えることはあるのか?」

「何だよ、その嵐メンバーみたいな略称」

「この間妹君に会ったとき『シンさんも堅苦しく無くしてにぃちゃに愛称で呼んでみたら?』と申されたから幾つか考察してみたのだが?」

「お前からそれ言われるのはこぇーわ!?」


5時限の終わり、教室の掃除用具をしまいながら宮本の"いつもの天然"が始まった。

時々周囲から謎電波を受信して驚かす所があるのが宮本真乃介と言う人物なのだろう…そう思いながら、話を進める。


「良いか宮本、お前から愛称だとかニックネームは要らん。普通に呼んでくれ」

「しかしそうなると、いつものどのように呼んでいるのか、検討がつかんのでな?」


そう言われると…宮本には宮本と返してるが宮本は俺をどう呼んでいたのか…。

遡って考えると…。


保育園時代

『おや、仁ノ宮殿』

小学校

『にゃーのみやどん!(翻訳:仁ノ宮殿!)』

中学校

『中納言仁ノ宮安房の守殿』

高校入学時

『サーニノミヤ!』


なんじゃこりゃ!?誰だこの馬鹿に大河ドラマ見せやがったの!?いつの間にか帝から位奉りしてるし、騎士の称号得てるし、大政奉還の立役者的ニックネームになっとるし!?

訳が分からないよ(涙目)


「と言うよりニックネームの方が本名よりなげぇ!なんてあるかチクショー!!」

「…うむ、やはり二宮金次郎の方が良いか?」

「薪背負いながら勉強してる人じゃないからね!もう性別しか関連性ねぇぞそれ!!」

「流石見事なツッコミ」

「誉められても嬉しくもねぇ…」


泣きたい、心から権現の滝級に涙が迸る。


「…とりあえずカズからとってカズヒラと言うのは?」

「恋も抑止力もセイピースも言わんぞ」

「なーなー!なーなー!」

「いつでもおいで!!って言わせるな!」

「最高のノリツッコミ。俺で無かったら見逃してたぜ」


能面の如く無表情で手を叩く姿といい、力の無い言葉といい、コヤツはおちょくらせる天才(無自覚)であろう。

外面良すぎてメッキどころか防弾防刃素材の合成樹脂を塗り込んでる気がするぜホントに

本来であればコンニャロを捨て置けば良いのだが女子からモテてる姿を見ると嫉妬で狂いそうになるんだからしょうがない。

俺と居ればそんな女子達も遠巻きから見ることしか出来ないし、様々な妨害が出来るから俺はコイツに付き合っている。


でも待てよ?自分で思ったが自分の心はネジ曲がっているのでは?

そもそも宮本は女子に囲まれているときを見ると天敵に晒された子猫の顔みたいに見えるし、何か助けてサインをトンツーでやってるし。

※トンツー(モールス信号の隠語)

何故トンツー出来るかはさておき、俺が入ってきた時の宮本の顔は明らかに安住の地を見つけて幸せそうにする猫みたいな顔になっていたよ全く。

とにかくコヤツは女子と話してるよりも俺と馬鹿話してる方が良いと言いやがったので仕方がなく付き合っているのである。


………正直に申せば宮本と一緒のクラスで良かったと心の奥ではそうに思っている。


…………

………

……


「今日は餃子の気分であるな」


放課後帰り道を歩きながら宮本は口を開く。

なんと言うことか、俺も気分は餃子だ。


「帰り道の買い食いはあまり推奨では無いな…」

「っんな小中学生みたいな事を言うのは止めとけ止めとけ」

「しかし、残念な事に目の先には」

「我が校生徒から愛される中華屋 翔竜拳亭ライジングドラゴンが目の前に」


店主があたかも俺より強い奴に会いに行くスタイルなのに百種あるメニューはどれも絶品

演舞の如く舞い上がる米一粒一粒カラリと炙られたチャーハンに野菜のシャキシャキ感を失わさず、均一に火を通した回鍋肉。

高く積まれた蒸籠の中には小籠包、焼売、ももまんじゅうが程よく蒸されてる。


軽く想像しただけで口内は鉄砲水の如く湧き出るとは…中々やりおる。


「…確かテイクアウトも出来たかな?」

「…点心だったら大丈夫だと聞いたことがあるが?」


俺達は静かに頷き合い、香ばしい匂いの先に足早向かう。

のれんをくぐり、ガラガラと若干立て付けの悪い戸を引く。

其処はまさしく、己の思い描いた、光景が広がっていた。


「ラッシャーイ!」


店主の掛け声が響く。


四人がけのテーブル席にはウチの運動部が4人で大皿に乗った山盛り千切りキャベツを平らげて居る。

他にも仕事帰りらしきサラリーマンがスーツを汚さぬようレンゲで丁寧にスープワンタンを啜っていたり子連れの家族でお互い違うラーメンをシェアしながら食べていた。


「空いてる席にどうぞ」


俺と宮本はひしめく店内を進みながら唯一空いているトイレに近いカウンター席に座ることにした。


「おしぼりとお冷やです」


店主の嫁さんが袋に入った熱々のおしぼりと製氷機から出したてと思われる氷の入った水を目の前に置いてくれた。

おしぼりの熱さに驚きながらも、コップの表面に出来た結露を一瞥し、まず一口飲む。

喉に冷たい水が流れ込み、体の真ん中を通る様に胃に到達する。

なんと言うか、昭和に生まれてきた訳では無いけど、レトロな雰囲気を味わうならこう言う店が良いのかもしれない。

勝手にそう思う。


「ご注文はどうしますか?」


翔竜拳亭の三人目の従業員、店主の娘婿が手書きの伝票を持って俺達に注文を取る。


「うん、俺は…」


餃子が頭によぎったが、店に入って中を一瞥した際あるものを見つけてしまった。

黒く光る醤油と水飴の光沢、震える効果音すら響くであろうプルプル感、包丁おろか箸でも切れる柔らかさ。

焼き揚げられ、煮られ、蒸し上げられた手間暇込めて作り上げられた中華の逸品。



東坡肉トンポーローである。


(うせやろ工藤)


浪速の名探偵が言いそうなセリフが思い浮かんでしまった。

何故そんなヤバい逸品ブツあるの?今夜何処かと取引するの?おいくら万円するの?

思わず思考回路にバグが走っていた。

一応言っておくと、学生が贔屓にするので値段はリーズナブル。

東坡肉と餃子をご飯付きで両方頼んだとしても千円以内に収まる。

しかし悲しいところ、我が胃袋にはそれらを納め、家に帰ってから夕食を食べるほど収納スペースが無いのである。

宮本の場合は痩せてる癖に大食漢であり、三合炊かれたご飯をロースカツ(200グラム)を五枚で平らげ、わんこラーメン五十五杯の記録を持っている。

ちなみにラーメンの後でホットドッグ十本食べてご馳走さま言える余裕すらあるのが凄いところ。

さて、どうするべきか…。

と考えていると、宮本が先に決めたのか、手を上げて口を開いた。


「…すみません!」

「はーい、何でしょうか?」

「餃子ライスセット大盛と東坡肉を二つ、海老春巻二本、鶏唐揚げ一皿、エビマヨでお願いします」

「そちらのお客さんは?」

「あっ…えっと、そうだなぁ~、餃子ライスセットとごま団子で」

「かしこまいりました~」


相も変わらず頼む量が凄い宮本。若干たじりながら何とか注文を終えた。


~少々中略~


「…旨かった…」


腹を抱えながら、空になった食器を一瞥しつつコップに残っていた水を飲みきる。

コップの水もラーメンの一部と言えるくらい

旨いとは…ミスターイノガシラが言ってたな…。

そもそもラーメン食べてないが。


宮本がまさか俺の東坡肉に対する熱視線を気付きまさか一枚譲ってくれるとは…昨日勢い余って完全犯罪をやり遂げた夢を見ていた俺を罰してほしくなった。

一応お土産を持っていかねば我が家の双子妹達の折檻が起こる可能性があるため二人の好きな翔竜拳亭の月餅を包んでもらう。

薄給ながらもアルバイトをしている俺は今月をどう乗り切るか考えるのを保留にしておこう。


「さてともカズチャンさん」

「君とかちゃんは名前の一部じゃないぞ?」

「うーむ、ではどうするべきか?」

「普通に呼んでくれと大分前から言ってるぞ俺は?」


中々決まらないと言うか収まらない事に頭を悩ませる宮本。んなことはどうでも良いのだ


「ってさっきから愛称ばかりで本題に到着してないなこれでは?」

「愛称が本題じゃないのかよ!?」

「どうしても締まりが悪くてな、フィ○トフ○ッ○された後の薔薇門みたいな?」

「そんな青いツナギ来た男が出てきそうな話をしないでくれ」


一応言おう。コイツは真顔で全くジョークで話している訳ではない。

x○id◯osもポ○ノ○ブも自己発電で見てない異星人類だ。


「とにかく、本題言え本題」

「あい分かった」


コヤツはいちいちツッコミ入れんと駄目なのか…。


「近年、他校では訳の分からない校則がSNS を通して物議を醸している」

「校則?って、制服を改造してはイケナイとか髪は黒じゃないと駄目とか?」

「うむ、だが昨今外国人留学生や国際結婚で生まれたハーフが日本の学校を通う中、取り決めを廃止せねばならない事態になっている」

「まぁ、時代の流れを考えれば変わることも仕方がないよな…」

「しかし、SNSの書き込みにはニワカに信じがたい事もある」

「…何だそれは?」


何時に無く神妙な顔持ちの宮本。其処までこの男を苛立てる事案があるとは…。


「…女性のうなじに性的な衝動を駆り立てる為、ポニーテール等の髪を縛るスタイルを禁止とする校則があると書かれていた」


………はっ?


「おかしいと思わんか?何故うなじに性的な衝動を駆り立てると決めつけている?そもそもうなじをセックスアピールとして考えられている事を発していれば、その人物こそうなじをセックスアピールとして見ている変態なのでは無いだろうか?」


あっ、うん。つまりは真面目に考えていると言うわけだ。

コイツにそんなニッチポイントがあったのがビックリと言うより、よく分からない校則があることがビックリしたんだ。

一応コヤツが真顔で爆弾発言したのか驚いたのはあるけども…。


「…うん、まぁ…確かに何だかおかしいよな」

「であろう?其処まで行き着けば、イスラム教の国で女性が着ているニカブやブルカの様な全身を覆う格好にも性的興奮を覚えかねない」

「流石に其処までは行き着かんだろう?」

「実際海外の性的アピールでも素肌を晒さない所を徐々に見せていくのがポイントとも言える。日本でも普段かっちりとした服装の人物が首元を開いたりすると男女問わずその部分を注視してしまうであろう?」


そう言われればそうである。

人間の性癖はどうであれ、無防備な部分を見たときの昂りと言うのは興奮する事も確かにある。

しかしへヴィーストレス社会の現代に於いてはそう言った行為でわいせつ罪やハラスメントに該当してしまう場合がある。


「しかし蝶よ花よで育てれば良いとは言わんが、一応常識的な女性を目標にするならば身だしなみは整える事は仕方がないと思うが?」

「ふむ、そういえば二宮」

「あっ?何かあるのか?」



「よくよく思えばウチの校則には服装についての項目は無い」


……そういえばそうだ。指定制服はあるけどもセーラー服もスーツも作務衣も私服でも身だしなみが整っていれば自由であった。


「…議論の余地が無い」

「…だな」


再度コップに水を注ぎ、仰ぐように飲み込みながら、沈黙。

オチをつけるのを逃すと駄々スベりと言うものである。




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宮本真乃介はパンツが見たい @Riot1944

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