第90話 情報過多

「あ! 言うの忘れたけど、ウチはムツミっていうんだ。よろしく」


 そういって手を差し出してくる少女……ムツミ。


「あ、あぁ……どうも」


「えっと……アンタは何型? 私は元々は汎用型の一般モデルでね、別に得意なこととかはないんだけど」


 汎用型……そうか。サヨみたいな戦闘に特化した人造人間ばかりではない。何かに特化していない人造人間というのもいたのか。


 って……俺自身は……なんといえば、いいのだろうか。


「……L型、らしい」


「L型、らしい? なにそれ……自分でわかんないの?」


「え、えぇ……最近知ったばかりなので……」


 俺が言葉に困っていると怪訝そうな顔で俺のことを見ているムツミだったが、しばらくすると興味を失ったのか「ふーん」といってそれ以上は聞いてこなかった。


「あ……ムツミは、ジャンク屋で働いているだよね? その……他にも人造人間がいるの?」


「そりゃあ、いるでしょう。街なんだから」


「あ、あぁ……えっと、じゃあ、帝国っていうのは……」


 俺がそう言うとムツミは再び怪訝そうな顔で俺を見る。


「え……アンタ、まじでなんにも知らないわけ? 今まで何してたの?」


「あ、あはは……その、実は俺、海を渡ってこっちの大陸に来たので」


 俺がそう言うとしばらくムツミは黙ってしまった。そして、それから程なくしてプッと、小さく吹き出した。


「あ、あはは……なにそれ……アンタ、見かけによらず面白い冗談言うね」


「え……いや、冗談じゃないんだけど……」


「良いって。ウチも冗談は好きだよ。あのねぇ、海の向こうってのは見捨てられた場所なの。何もないし、誰もいない……そういう場所でしょ?」


 ……なるほど。どうやらこちらには向こうの大陸のことはこういう感じで伝わっているようである。


「……まぁ、確かに何もないってのは、間違っていないけど」


「でしょ? だったら、アンタが海を渡ってくるなんて、無理でしょ? まぁ、なんでもいけど……帝国ってのはここら一体の場所のことでしょ? で、一番偉いのが皇帝。ウチもよく知らないけど」


「皇帝って……それじゃあ、まるで人間みたいな……」


「まぁ、人間の真似事をするのが好きなんでしょ、ソイツは。別にウチは興味ないからどうでもいいよ」


 そう言ってどんどんと進んでいくムツミ。と、先程までの廃墟が並ぶ場所から、今度は広い草原のような場所に出る。


 ところどころに、何かの部品のような……壊れたパーツのようなものが散乱している。


「えっと……ムツミ。あれは?」


「ん? あぁ、残骸ね」


「残骸……何の残骸ですか?」


「何って、人造人間のでしょ」


「え……なんで人造人間の残骸があんな場所に放置されているんですか?」


「そりゃあ、ここで戦争があったからでしょ?」


「戦争……」


 ……さすがに一気に取得する情報量が多すぎる。帝国、街、そして、今度は戦争だ。


 戦争というのは人間同士が、人造人間を使役して行うものではなかったのか? それをなぜ、人間がいなくなった夜の世界で戦争をする必要があるんだ?


「ちょっと! 置いていくよ!」


 俺が残骸を見て考え込んでいると、ムツミが既に先に進んでいってしまっていた。


 今は考えている余裕はない。とりあえず、ムツミについていき、落ち着いてから情報を整理しよう……俺はそう考えて引き続きムツミの後をついていくのだった。

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