第89話 一人

「……ついに一人になっちゃったな」


 俺は地下施設を出てしばらく走った。疲れる……ということもないのだが、しばらくしてから俺はその場に座り込んでしまった。


 旅を始めてから、俺は初めて一人になってしまった。一人で始めた旅だが、元通りに一人になってみると、何かとてつもない空虚な気持ちが押し寄せてきた。


 いつもはサヨ、もしくはクロミナが俺の近くにいてくれた。しかし、今はその二人のいずれもがいない……


「……ハハッ。おかしな話だな。人造人間が寂しいなんて」


 俺は思わず一人でそう笑った。しかし、そう言うと余計に寂しくなってしまった。


 ……かといって、ずっと一人でこんな場所にいても仕方がない。それに何より、俺はクロミナに逃がしてもらった身だ。行動を起こさなければならないだろう。


「……そうだ! サヨ!」


 俺がまずすべきこと、それはサヨを探すことだ。サヨは一体どこへ行ってしまったのか、そもそも無事なのか……何にせよ、探さなければならない。


 俺は立ち上がるが……すぐに困ったことになる。そもそも、俺はどちらへ行けばいいのだろうか? ここがどこで、この先には一体何があるのか……それさえもわからないのだ。


「こんなことなら、最低限クロミナに聞いておくんだった……」


 といってもそんな余裕もなかったわけだし、今更後悔しても仕方ない。


 とりあえず……適当に歩くしか無いだろう。俺は今一度立ち上がり、あてもなくあるき出そうとした……その時だった。


「あれ? アンタ、こんなところで何してんの?」


 と、いきなり声が聞こえてきた。俺は声のした方に顔を向ける。


 見るとそこには……小柄な少女がこちらを珍しそうに見ていた。


 身なりは……なんというか、かなり貧相だった。服や肌も汚れている。おそらくは人造人間なのだろうが……


「え……えっと、君は?」


「ウチ? ウチは別に大したものじゃないよ。っていうか、アンタ。人に名前を聞くときはまず自分から名乗りなよ」


 そう言われると……確かにそうかもしれないと思ってしまった。


「えっと……俺はナオヤ。その……道に迷っちゃって」


 俺が名乗ると最初は怪訝そうな顔をしていた少女も、なぜかニッコリと微笑む。


「なぁんだ。迷子か。ウチはてっきり、同業者の縄張り荒らしかと思っちゃったよ」


「同業者……? 君は何か仕事をしているの?」


「うん。この先の街でジャンク屋をね」


「街? ジャンク屋?」


 いきなり出てくる言葉に俺は混乱する。


 街があるのはわかるが……ジャンク屋? 一体どんなお店なんだ?


 俺が混乱しているのがわかったのか、少女はポンポンと俺の肩を叩く。


「アンタ、かなりの田舎者? せっかくだし、ウチの店、見ていく?」


「え? いいんですか?」


「もちろん。まぁ、あんまりお金もっているようには見えないけど……まぁ、ついてきなよ」


 そう言って少女はあるき出す。俺はよく理解が追いついていないままに、少女のあとをついて、夜の闇の中をあるき出したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る