第87話 帝国

 それから俺はクロミナに手をとられて進んだ。薄暗い研究施設は異様に広大だった。


「ここって……一体何なの?」


「……ここは管理者が見つけました。人間の研究施設だったようです」


「研究施設? 何を研究していたの?」


「……人造人間です。人造人間の製造や改良をしていたそうです。だから、管理者はアナタに改造を施すことができたのです」


 なるほど……それにしても、そんな施設が未だに稼働しているということが驚きだった。こんな大きい施設がそもそもどこにあるのかも俺には理解できなかった。


「そういえば……ここって、どこかの建物なの?」


「……いえ。ここは地下です。地下深くの研究施設です」


「地下? じゃあ、この上には何があるの?」


「……街です」


「街? それって、クロトが作った?」


 俺がそう言うとクロミナは首を横にふる。


「……いえ。管理者が作った街ではありません。上にあるのは……帝都です」


「帝都? え……なにそれ?」


「……帝都は帝国の中心です。もっとも、帝国の都市は帝都だけですが」


「ちょ、ちょっと待って! 帝都? 帝国? な、なにそれ? それって、人類がまだ生きてるってこと?」


 俺の理解がまるで追いついていないのに対して、クロミナはゆっくりと首を横にふると、いつも通りに冷静に先を続ける。


「いえ。帝国も帝都にも、人類は存在していません。いるのはすべて、人造人間です」


「え……それって、人造人間が帝国を作って、人造人間が帝都に住んでいるってこと?」


 俺が未だに聞きたことだらけでいるのに対してクロミナはどんどん先に進んでいく。


「……話を聞くより実際に見たほうが良いでしょう」


 と、目の前にはいつのまにか大きな扉があった。クロミナが扉の横の装置を弄ると、ゆっくりと扉は左右に開く。


 その先には……長い階段が続いていた。


「……この階段の先にナオヤが見たいものがあります。行きましょう」


 そう言ってクロミナは俺に手を差し出してくる。俺は不安と期待を覚えながら、その無機質な冷たいを手を握ったのだった。

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