第86話 理解不能

「え……ど、どういうこと?」


 俺が混乱している間にも、クロミナは俺の拘束を解除する。


 俺はそれまでの不自由さが嘘のように、あっという間に自由になった。


 俺は今一度クロミナの方を見る。


「……さぁ、もうアナタは自由です」


 クロミナは相変わらずの無表情で俺にそう言った。自由……と言われても俺は一体何が起きているのか未だに理解できなかった。


「……えっと、クロミナはなんで助けてくれたの?」


「……さぁ、どうしてでしょう」


 クロミナ自身も本当に理解できていないようで、信じられないという顔で倒れているクロトを見ている。


「……ただ」


「ただ?」


「……我慢ができませんでした。管理者のアナタに対する行為が」


 ……クロミナ自身、本当に理解できていないのだろう。まぁ、俺としてはこれ以上クロトに身体をめちゃくちゃにされてしまうのは耐えられそうになかったので、本当に助かったわけだが。


「……えっと、それでこれからどうするの? クロトは、停止しているみたいだけど……」


「……えぇ。ですが、管理者がほどなく再起動するはずです。その前にここを離れたほうがいいでしょう」


「え……それは、そうだけど……クロミナはどうするの?」


 俺がそう言うとクロミナは困ったような顔で俺を見る。


「……私はアナタを騙してきました。管理者の命令に従い、アナタをここまで連れてきた……ですが、私はなぜか管理者の命令に背いてしまった……どうすればいいかわかりません」


 クロミナは無表情だったが……やはり困っているようだった。それなりに共に旅をしてきたわけだし、仮に人造人間であったとしても感情の機微は理解できる……といっても、俺も人造人間だったわけなのだが。


「……えっと、一緒に逃げない?」


 俺がそう言うとクロミナは驚いたようだった。


「……ですが、私は……」


「クロトが再起動したら、きっとクロミナに対して相当怒ると思う……俺は、クロミナが怒られるのは嫌なんだ」


 そう言って俺はクロミナの手をとる。クロミナは驚いたように俺のことを見ていたが……小さく俺に対して頷く。


「……理解できません。ですが……私はアナタと共にいたいと思っています」


「それじゃあ、一緒に逃げよう!」


 俺はクロミナの手をとったままで、倒れたクロトを放置し、そのまま謎の研究施設らしき場所を脱出するために行動を開始する。


「……って、えっと……ところで、出口って……どこ?」


 ……そもそも、俺はここがどこだがも理解していないのだ。情けないながらも、俺はクロミナにそう聴いてしまう。


「……この施設のことはすべて把握しています。管理者が再起動する前に逃げましょう」


 そう言って今度はクロミナが俺の手をとって、走り出したのだった。

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