第78話 夢幻
「おぉ、すごいじゃないか! ■■■■!」
……なんだろう。俺は幻を見ている気がする。
誰かが俺のことを褒めているような気がする……名前を呼ばれているんだろうけど……よく聞こえない。
「……これで、人類も救われるのね!」
よく見ると、目の前には二人、白衣姿の男と女が立っていた。二人は嬉しそうに俺の事を見ながら話している。
「いいか、■■■■。お前は特別なんだ。これからはお前が人間と人造人間の架け橋にならなくちゃいけないんだ」
男性の方が俺に言い聞かせるようにそう言う。
俺が……人間と人造人間の架け橋? ただの人間の俺になぜそんなことができる?
俺が不思議そうな顔で男性を見ると、男性は微笑む。
「大丈夫だ。お前は俺と彼女の二人の努力の結晶……俺達の子供みたいなものなんだ」
「子供って……やめてよぉ~!」
男と女は嬉しそうに話し合っている。そんな時に俺の中にふとある感情が芽生えた。
なんで……この人たちはこんなに楽しそうにしているんだ。俺は少しも楽しくないのに。
「でも、■■■■が私達と人造人間の架け橋になってくれれば……私とアナタの子供の時代にはきっとまた、昔のように暮らせるかも知れないわね」
「あぁ……そうだな。きっと、また、夜明けの時代が来る……そのためにもコイツに頑張ってもわなくっちゃいけないな」
夜明け……何を言っているんだ? 世界はずっと夜が続いているのだ。
夜明けが来てしまったら……どうなる? 俺とサヨ、クロミナの旅も……終わってしまうのか? 夜明けが来なければ俺達はずっと――
「さぁ、0■■■。これからが忙しくなるぞ」
そう言って白衣の男性は俺に手を差し出してくる。握手……俺はそれに応えるかのように自然と男性に手を伸ばす。
なんだ? 今、男性は俺の名前を呼んだ。名前が聞こえたような……聞いてはいけないような……
「俺達の……いや、地球のために頑張ってくれよ……070■」
……待て。今コイツなんて言った。俺はにわかに信じられない気持ちになる。それが幻であっても夢であっても、俺はとても嫌な気分になった。
「今……なんて?」
俺は自然と男性に訊ねてしまう。男性は不思議そうな顔をする。
「ん? だから、頑張ってくれ、って」
「いや、違う。そうじゃない……今、俺の名前を呼んだよね? 俺の名前は……なんなんだ?」
俺がそう言うと男性と女性が顔を見合わせる。そして、男性は苦笑いしながら俺を見る。
「あぁ~……すまない。まだお前の名前を決めてないんだ」
「名前が……決まってない? それって、どういう――」
すると、男性は俺の手を離し、急に真顔になる。
「当たり前だろう。お前はL型人造人間0708。人造人間に名前なんて、あるわけないだろう?」
その瞬間、俺が見ていた幻は形を失い、そのままその世界は有耶無耶になった。
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