第77話 入水

「……人造人間を……売る?」


 俺は理解できなかった。そもそも、状況が理解不能すぎる。一体船長はサヨに何をした? なぜ、サヨが倒れている?


 船長は変わらずニヤニヤしながら俺とクロミナの方に近づいてくる。と、クロミナが俺の手をいきなり引っ張ったので俺は後ろに退がった。


「逃さねぇぞ! お前ら全員売ったら、俺は向こうで当分遊んで暮らせるんだからなぁ!」


 そう言って船長は警棒を振り回しながらこちらに近づいてくる。


 俺はクロミナに引っ張られるままにそのまま後ろに下がっていく。


 と、いつのまにか俺達は舟の先端までやってきてしまっていた。目の前には暗く、紅い海が広がっている。


「へへへ……観念しろよ。そのまま海に堕ちたらどうなるか? 人造人間ならわかるよなぁ?」


 そうだ……俺はともなく、クロミナはどうなる? 人造人間って泳げるのか? ……って、どう考えても重さで沈んじゃうだろう!?


「さぁ、大人しくこっちに来いよ。あの姉ちゃんはA型だったらか大人しくなってもらったが……暴れなきゃ俺だって手荒な真似はしねぇよ」


 そういって船長は一歩ずつこちらへ近寄ってくる。俺達も船長の言うことに従うしかないのか……俺にはどうすればいいのかまるでわからなかった。


「ナオヤ」


 と、クロミナが小さく、しかし、俺に聞こえるように呼びかける。


「え……な、何?」


「アナタ、泳いだことはありますか?」


「泳ぐって……ないけど……というか、クロミナ! 駄目だって! 君は――」


 しかし、止める時間などなかった。クロミナは俺の手を有無を言わさぬ強い力で掴んだままで、舟の先端を思いっきり蹴った。


「あ! 馬鹿!」


 最後に聞こえた声は……船長の声だった。続いて聞こえてきたのは……バシャン、という大きな水音。


 そして、そのまま身体中を水に包まれるのがわかる。意味もわからず俺は目を開く。


 紅い海の中は……何もなかった。ただ、どこからか漏れてきている月の光が、優しく海の中に差し込んでいた。


 しかし、次の瞬間には、初めて経験する水の中で自分がどうすればいいのかまるでわからなかった。俺はすぐに水を大量に飲み込んでしまうと、そのまま……意識を失ってしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る