第61話 寝室

「……暗いな」


 今まで豪邸の中は廊下でさえかすかな明かりが付いていた。


 しかし、俺達が入った部屋の中は完全に暗闇だった。大きな窓があるが、月明かりが微かに差し込んでいるだけである。


「ナオヤ。あれは?」


 と、クロミナが指す先には、何かの人影があった。それはまるで動く気配がなく、その場で座り込んだままである。


「なんだろう……動かなから人形か?」


 俺が近づいていく。段々と目が暗闇に慣れてきたようだった。月明かりが人形を微かに照らしている。


「……え?」


 人形の顔は……ミレイと全く同じ顔つきだった。というか、それは人形ではない。あまりにも精巧に作られすぎている。


「え……これって……人造人間?」


「はい。他にもありますね」


 クロミナがそう言って俺の肩を叩く。確かに園となりにも、それまた隣にも同じようにまるで動かない、ミレイと同系の人造人間が座っている。


「……これって……どういうこと?」


「ナオヤ。あれは?」


 そう言って今度はクロミアは部屋の片隅を指差す。見ると、そこは大きな垂れ幕のようなものがかかっている。


「あれって……ベッド?」


「そのようです。つまり、ここは誰かの寝室のようですね」


 言われてみればこの感じは確かに寝室のように見える。それにこの部屋だけが暗いというのも納得できる。


「それじゃあ……あそこに眠っているのがこの豪邸の主……ミレイがお嬢様って呼んでいた人か?」


「確認しましょう」


 そう言ってクロミナは遠慮なくベッドの方に進んでいく。さすがに眠っている時にマズイのではないかと思ったが、俺も強く止められなかった。


 もしかすると、人間に会うことが出来るかもしれない……微かに俺はそう期待してしまったのだ。


 しかし、その期待はすぐに、間違ったものだっと理解できるのだが。


「ナオヤ」


 既にベッドの側に近寄っていたクロミナが俺に呼びかける。俺はそのままクロミナの方へ近づいていった。


 この屋敷に住んでいる、人間の生き残り……どんな人なのだろう。俺はそう思ってクロミナの横からベッドを覗き込む。


「ひっ!?」


 思わず俺はそのまま飛び退いてしまった。クロミナは冷静なままでベッドを見つめている。


「え……こ、これって……」


「はい。これは、白骨死体ですね」


 クロミナの言う通りだった。ベッドの上で眠っていたのは生身の人間ではなく、白骨化した死体であった。


「な、なんで……こんな……」


「あぁ。ご挨拶が遅れましたね。そちらで眠っていらっしゃるのが、この館の主……ワタクシの仕えるお嬢様でございます」


 背後から声が聞こえてきたので俺たちは瞬時にそちらを向く。


「困りますね。勝手にお屋敷の中を動き回られるのは」


 そこにいたのは……満面の笑みで俺とクロミナのことを見ているミレイだった。


 俺はその時、明確に恐怖というものを感じたのであった。

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