第36話 決死
「……よし。じゃあ、始めるぞ。気休めだが、私が最初にまた石を投げる。そして、ヤツが石を撃ち抜いたら、今度は私が物陰から飛び出す。そして、私が物陰から出てから10秒後にお前も飛び出せ。そして、何があっても立ち止まるな。いいな?」
サヨにそう言われ、俺は頷くことしかできなかった。不安はあったが、かといって、やめようとは言えなかった。
サヨはそう言って石ころを手に取る。無言で俺を見て小さく頷いた。
「行くぞ」
サヨはそう言って、石ころを投げた。その瞬間、またしても石ころが粉々に砕ける。それと同時に、サヨは物陰から飛び出した。俺はその瞬間から10秒を数え始める。
サヨが走っていく。もしかして、サヨは安全に狙撃手のところまでたどり着けるのではないか……そう思っていた矢先だった。
いきなりサヨの右足が、破裂した……いや、部品がバラバラになったという方が正しい。サヨの右足が撃ち抜かれたのだ。
「正面だ! 正面の建物の5階から撃ってきてる!」
サヨはそのままバランスを崩しながら大声で叫んだ。まだ10秒経っていなかったが、俺はそのまま物陰から飛び出した。
そして、そのままサヨが指示したように正面の建物へ向かう。一瞬、何かが俺の頭の上を掠めたような気がしたが……おそらく銃弾だったのだろう。
しかし、銃弾はついに俺の体を貫通することはなかった。俺は正面の建物の中に入ることができた。
「サヨは……!?」
建物の入り口からサヨにいる方向を見る。サヨは地面に倒れていた。動いてはいるようで、なんとか物陰に隠れようとしている。
……本当に大丈夫なのか? サヨをあのまま放っておけば狙撃手がサヨに止めを刺すかもしれない……そうなれば、俺の旅は――
「さっさと行け!」
と、サヨの声が聞こえてきた。俺はまるでその声に弾き飛ばされるようにして走り出した。建物の中は、至るところに瓦礫が散乱している廃墟だった。しかし、幸運なことに上の階につながる階段は塞がっていない。
俺は一気に階段を駆け上がった。2階、3階、4階……そして、5階に辿り着いた。5階には瓦礫もなく、伽藍とした場所であった。
すでに窓ガラスもなくなっている窓際に、何かが設置されているのに気づく。俺はその何かに近づいていく。
「見た目より足が早いな。アンタ、新型か?」
と、その何かは、喋った。とても機械的な音声だったが、間違いなく喋っていた。
「え……喋って……」
「なんだ? 銃が喋ったらおかしいのか?」
そう言ってその何か……銃座に設置された大型のスナイパーライフルは方向を変え、俺の方に銃口を向けてきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます