第37話 仕事
俺が間違っていなければ、確実に眼の前で銃は俺に対してその銃口から、言葉を発射していた。
……いや、戦車が喋る世界なのだ。別に銃が喋ってもおかしくはないだろう。
「で、アンタは新型なのか?」
「え……いや、俺は……人間だ」
俺がそう言うと銃は黙った。銃口だけが俺の方に向いていてなんだか居心地が悪い。
「そうか。人間か。それにしては、足が速かったな」
「……どうして、サヨを撃ったんだ?」
「サヨ? アンタの連れの人造人間のことか? どうして、って、それが俺の仕事だからに決まっているだろう」
「仕事……?」
予想外の言葉に思わず俺は驚く。感情も何もわからなかったが、銃はそれが当然のことだという感じで喋っていた。
「あぁ。俺はここから狙撃をするために作られ、ここに設置された。そして、俺の射程範囲内に入った奴を狙撃する。それが、俺の仕事だ。アンタだって、何か仕事があるだろう?」
そう言われて俺は困ってしまう。仕事……俺には仕事なんてない。
あるとすると、今の俺は……旅が仕事のようなものだ。そして、その旅の連れであるサヨ……サヨの安全を確保するためにここに来たのだ。
「……その仕事、やめてくれないかな?」
「やめる? なぜ?」
「君はおそらく……戦争のためにここに設置されたんだろう。でも、戦争はとっくに終わってる。君がやっていることは、もう意味がないことなんだ」
俺がそう言うと銃はまた黙った。そして、その銃口を今一度窓の外へ向ける。
「仮に、意味がなくても、俺は仕事をするために存在する。仕事がなければ俺は存在できない」
「……じゃあ、君は存在する限り、ここから狙撃を続けるっていうのか?」
「そうだ。そして、幸いなことに俺にはまだ弾が残っている。アンタの連れ、まだ動いてたよな? 人間でも人造人間でも関係ない。きっちり止めを刺さないとな」
「や、やめろ!」
俺がそう言うと今一度銃はこちらに方向転換する。
「それなら、アンタが俺を止めてくれ」
「え……」
「俺は俺の仕事に逆らえない。だけど、これが意味のない行為だということもわかっている。だが、仕事をやめれば、俺には存在価値はない。分かるだろう?」
「俺に……どうしろと……?」
「簡単だ。俺を破壊すればいい。銃座から外して地面でも壁にでも思いっきり叩きつけるか、窓から放り投げれば破壊できる」
「そ、そんな……で、でも、君には意識が……」
「意識? おいおい。だからって、俺が生きているとでも言うのか? 動けず、狙撃することしかできない存在が、生き物だっていうのか?」
銃は淡々として口調で喋っていたが、怒っているようだった。俺はそれ以上は何も言えなかった。
すると、再度、銃は方向転換し、窓の方に銃口を向ける。
「アンタの連れ、まだ物陰に隠れられていないな。ここから狙撃できるぞ」
「そ、そんな……やめてくれって……」
「3秒後にアンタの連れに止めを刺す。決めてくれ」
「え……ま、待ってよ……!」
「3」
銃は本気のようだった。自分を止めたいのなら自分を破壊しろ……本気でそう言っているのだ。
「2」
ここでもし、俺が止めなければサヨは……確実に機能を停止させられる。ここで狙撃を止めることができるのは、俺だけなのだ。
「1」
そう思うと、俺は銃を掴み、思いっきり銃座から引き離した。何かの部品がバキバキと音を立てて壊れたが気にしなかった。
「うわぁぁぁ!」
俺は叫びながら……先程まで会話していたスナイパーライフルを窓の外に放り投げたのだった。
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