第17話 栽培
「……あれって……なんだろう?」
道路の少し先、その脇で、何やら、誰かが作業をしているようなのである。
「農業……? いや。もうこの世界で何かを生産する存在なんてありえないはずだが……」
サヨも不審そうにそう言う。俺はサヨの方を見る。
「……あぁ。別に行っていいぞ。私も少し気になるからな」
俺とサヨは作業している人影の方へ向かっていった。
「すいません!」
俺は人影に声をかけた。驚いた様子でもなく、ゆっくりとその人影はこちらを向く。
「おや。珍しい。どうしたんだい、アンタ達は?」
人影は……若い女性だった。見た目的にはサヨと同じ年齢くらいに見える。もっとも、人造人間に若いも何もないとは思うが。
「えっと……アナタは何を?」
「え? アタシ? あぁ。見たままさ。花を育てているんだよ」
「……花?」
俺は思わず聞き返してしまう。
「花……育つのか?」
今度はサヨが聞く番だった。女性は最初はキョトンとしていたが、ニッコリと笑顔で頷く。
「あぁ。育つさ。実際、育っている実感があるからね」
「……そうか。それでこの花はいつ咲くんだ?」
サヨが少し落ち込んだ様子でそう訊ねると、女性は少し考え込んだあとで俺達を見る。
「そうさねぇ……今日くらいには咲くんじゃないかな?」
「え? 今日?」
流石に予想外過ぎて驚いてしまった。しかし、女性はあくまで本気のようである。
「あぁ。アタシは嘘は言わない主義でね。どうだい? アンタ達も花が咲くところを見ていかないかい?」
「え……もし、咲くのなら見ていきたいけれど……」
俺は許可をもらおうとしてサヨを見る。サヨは半信半疑な感じで女性を見ていたが、小さくため息を付いたあとで頷いた。
「……そうだな。せっかくだから、見ていこうか」
こうして俺とサヨは、花が咲くその瞬間を見るために、その場にとどまることにしたのであった。
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