第16話 月

 それからしばらく時間が経った。小屋の中でぼんやりしていると、いつの間にか雨は止んでいるようだった。


「……雨、止んだみたいだな」


 俺がそう思った矢先、サヨも同じことを思ったようだった。


「そろそろ、行く?」


 俺の問にサヨは小さく頷いた。俺とサヨはボロボロの小屋を出ていくことにした。


 小屋を出ると、地面は濡れていたが、確かに雨は止んでいた。湿った大気が、身体にまとわりついていくるのがわかる。


「それにしても……変な世界だよな」


 サヨがポツリとそう言った。


「まぁ、変な世界ではあると思うけど」


「……昔は雨が止んだら、太陽が顔を見せていたらしい。それが今はどうだ……雨が止んでも、太陽どころか、そもそも、朝が来ないじゃないか」


 サヨは自嘲気味にそう言う。確かに、雨が止んだら晴れるものだということは俺も知っている。だが、すでに世界には朝は来ない。空は永遠に闇のままだ。


 ふと、そう思いながらも、俺は空を見上げる。


「あ」


 思わず声をあげてしまった。


「……なんだ? 何か見つけたか?」


「ほら。あれ」


 俺はそう言って、空を指差す。その先には、綺麗な満月がくっきりと浮かんでいた。


「……綺麗だな」


 少し悔しそうに、サヨはそう言った。


「確かに、もう太陽は見られなくなったけど……今の俺達にとっては、月が太陽みたいなものだね」


 そう言ってもう一度俺は、綺麗な月を見る。


「ということは、こんなにも月が綺麗に見えている今は……晴れ、ということになるのかな?」


 俺がそう言うとサヨは目を丸くしている。そして、小さく微笑んだ。


「……確かに。そうかもしれないな」


「『月が綺麗ですね』……だったかな?」


「……なんだ? いきなり」


「いや、昔読んだ本に、何かの言葉の言い換えが、そんな言葉なんだ、って話があったのだけれど……なんだったかな……」


「なんだ。思い出せないのか?」


「うん……サヨは、知っている?」


「私が知るわけ無いだろう。まぁ、そういうのはいきなり思い出すものだ。旅の途中で思い出すんじゃないか?」


 確かにサヨの言う通りかもしれない。あまり焦らずに気長に待つことにしよう。


「……わかった。思い出したらサヨに何の言葉の言い換えだったか、教えるよ」


「あぁ。期待せずに待っているよ」


 そして、俺達は再度、月が綺麗な夜空の下を歩き出したのだった。

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