第15話 不条理
「……お前、A型人造人間がどういうものか、理解できていなかったよな」
しばらく経ってからサヨが俺に話しかけてきた。
「まぁ、そうだね。戦争をしていた、ってことしか知らないな」
俺がそう返答すると、サヨは膝を抱えたままでその先を続ける。
「……戦争がどういうものかは……わかっているか?」
サヨの問に俺はしばらく考え込む。戦争……本で読んだ限りでは、それは領土の取り合いであり、殺し合いであり、兵器の使用合戦だ。
だけど、サヨが言っているのは「わかっているか」という点だ。俺は戦争に言ったことがないし、どういうものかは経験していない。
「いや、知らない」
俺は素直にそう答えることにした。すると、サヨはなぜかフッと小さく微笑む。
「……A型人造人間は大量生産だ。私と同じ背格好、同じ顔の人造人間が何体も作られた……もちろん、自分と同じ奴がいるってことに、私も疑問なんて抱かなかったけどな」
サヨはそう言ってから大きくため息をつく。
「……ある時、大規模な戦闘があった。私は他の私達と同じように、敵地に向かって突撃していった……なぁ。そういえば、昔は戦争では鉄砲や爆弾を使っていたんだよな? その時の戦闘では何を使っていたか……わかるか?」
「さぁ。わからない」
「……武器じゃないんだ。ある者は鉄の棒、ある者は石、酷いものは何も持たずに突撃していった……相手は同じ人造人間。人造人間同士が、ひどく原始的に相手を破壊しようとする戦闘……それが私の知っている戦争だ」
サヨは真剣な目で俺を見ていた。俺はその時、なんと返答していいのかわからなかった。
「……だが、戦争は戦争だった。いかに武器が貧相でも、私達は立派に殺し合い……いや、破壊しあっていた。私もご覧の通り、表皮の装甲が剥がされたわけだ」
そう言って、サヨは自分で巻いた顔の包帯の部分を指差す。
「その時……たまたま、私は一瞬だけ見たんだ……人造人間同士が破壊し合い、その部品が辺り一面に転がっている光景……月に照らされたその光景は……とても……怖かったんだ」
「怖い」
俺は声に出した。サヨは驚いた顔で俺を見ている。
「……そうだ。ハハハッ……おかしいだろ? 人造人間が、怖い、だなんて……」
サヨはそう言ってから小屋の穴から外を見る。
「その瞬間、私は戦場から逃げ出した。どこまでもどこまでも逃げて……それから何年、何十年経ったかもわからない……気づいたら街灯の下で座り込んでいたんだ」
なるほど……サヨがあそこにいた経緯が今、ようやくわかった。
でも、その経緯は俺が想像していた以上に複雑な経緯だった。そして、サヨが抱えていた複雑な感情も。
感情……サヨは人造人間が怖いだなんて思うことがおかしいと言っていた。
だけど、俺にとって見ればそもそも……サヨは俺以上に人間らしいし、怖いという感情を持つのも普通に思える。
「……おかしくないんじゃないかな?」
俺がそう言うとサヨはこちらを見る。
「別にいいんじゃないかな。人造人間が怖いって感情を持っても」
「お前……それが不条理だとは思わないのか?」
「不条理?う~ん……そもそも、こんなにも夜が続く世界で、不条理も何も、ないんじゃないかな?」
俺がそう言うとサヨは少し目を丸くしていた。それから、なぜかまたしても呆れたような顔で俺を見る。
「……お前の方がよっぽどおかしいな」
サヨはそう言うとそれ以上は何も言わなかった。
ただ、どことなく、スッキリした用な感じの表情になったのではと、俺は感じていたのだった。
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