第8話 星
「……あ。また、人だ」
しばらく歩き続けていると、また人影が見えた。今度は街灯の下ではなく、道路から外れて何かをしている人影がある。
「おい、また話しかけるのか?」
めんどくさそうな顔でサヨはそういうが、俺は気にしなかった。人影の方に近づいていく。
「あの」
俺がかなり近づいてから話しかけると、その人物はとても驚いたようだった。
「え……誰?」
その人物は白衣を着ていて、メガネをかけている男性だった。いかにも学者って感じである。
「あ……いえ、すいません。驚かせるつもりはなかったんですが」
「あ、あぁ……そうか。いや、すまん。僕も少し驚きすぎた」
俺達がそう話していると、サヨがこちらにやってきた。
「お前、何をしている?」
「え? 何って……星を見ているんだ」
「星?」
男性は空を見上げている。俺も同じように夜空を見上げてしまった。
「……あぁ、すまない。僕の名前はトシというんだ。良かったら君たちも星を見ていかないか?」
そう言って男性……トシは何やら先程まで使っていたであろう道具に近寄っていく。
「この筒みたいなのは?」
「え……望遠鏡だよ。知らないかい?」
俺は首を横に振る。隣を見ると、サヨも知らない感じである。
「そうか。まぁ、それなら丁度いい。とにかく、ここを覗いてみてくれ」
トシにそう言われるままに俺は望遠鏡とやらの端の方の部分に目を当てる。
「お」
そこから見えたのは……光り輝くいくつもの点であった。おそらく、それが星なのだろうが、普通に空を見上げるよりも何倍も美しく見える。
「すごいな……」
「え……お、おい。ナオヤ、私にも見せてくれ」
サヨがそう言ってきたので、俺は望遠鏡を覗き込むのを譲る。
「すごいだろう? 星は……この瞬間にも、宇宙の遠いどこかで輝いているんだ。そう考えると、自分が小さな存在に思えてこないかい?」
トシはそう言ったが、俺にはイマイチ、ピンとこなかった。俺には星とか、宇宙とかあまりにも遠すぎる存在で、あまり実感できない。
「……しかし、世界が滅びても星は輝いているんだな」
望遠鏡を覗き終えたサヨは、夜空を見上げながらそう言う。
「いや……むしろ、世界がずっと夜になったことで、星々は一層美しく輝くようになったと思うよ」
トシは星を見上げながら嬉しそうにそう言う。この男性は本当に星を見るのが好きなんだと、俺にも理解できた。
「ちなみに、トシはいつから星を眺めているんだ?」
俺がそう言うとトシは少し考え込んだあとで、苦笑いする。
「いや……正直覚えてないんだ。ずっとここで一人で星を見ていることに夢中になっていたから……話しかけられたのは何十年ぶりかな?」
「そうなんだ。でも……それはとても幸せそうな話だね」
俺がそう言うとトシは満足そうに微笑んだ。サヨは相変わらず理解できないという表情で俺達を見ている。
それから、しばらく星を眺めたあとで、俺達はトシと別れた。
「彼はこれからも星を眺め続けるんだろうね」
俺はそう言いながら、それを少し羨ましいと思っていた。
「……滅びた世界で星を眺め続けるなんて……フッ。なんだか、虚しい話だな」
サヨはなぜか少し意地悪そうに笑っていた。俺が理解できずにサヨを見ていると、不満そうに顔を反らしてしまった。
でも……確かにそれは少し寂しい感じもする。俺は夜空を見上げながらそう思ったのだった。
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