第5話 展望

「結構、ボロボロだね」


 建物の入り口まで来てすぐに、その建物がひどく破壊されていることに気づいた。


「そりゃあな……誰の手入れも入っていないだろうからな。エレベーターは……フッ。当然止まっているよな」


 そう言って入り口から少し歩いた方向にあったエレベーターのボタンを意味もなくサヨは押していた。


「階段は……あそこにあるね」


 エレベーターから少し離れたところに、階段があった。


「よし。行こう」


 俺達は階段をのぼりだした。ビルは見た目以上に階数が多かったようで、俺達はひたすら階段を登ることになった。


 階段を登っている間はまたしても変わり映えのしない時間だった。俺の後ろをサヨがひたすら付いてきていて、階段をタンタンと歩く音だけが響いている。


「……なぁ、どうしてお前、このビルの最上階に行きたいと思ったんだ?」


 と、ふと、サヨがそんなことを訊いてきた。俺にとっては予想外の質問だったので思わず階段を上る足を止めてしまった。


「どうして、って……さぁ?」


「さぁ、って……何か理由があるんじゃないのか?」


「理由……ないかなぁ。単純に登ってみたいと思ったからかな?」


「……なるほど。お前はそういう奴なんだな。聞いた私が悪かった」


 なぜかサヨに呆れられてしまった。正直な気持ちを答えただけなのだが、何かいけなかったのだろうか。


 とにかく、俺達は階段を上るのを再開した。しかし、その作業はほどなくして終わりを迎えることになる。


「あ」


「……これは、駄目だな」


 目の前がいきなり塞がれた。天井が完全に崩落し、階段の先に進めなくなっている。


「残念だったな。最上階まで行けなくて」


「そうだね。じゃあ、とりあえず、この階から外を見ても良い?」


「外? 別にいいが……」


 怪訝そうなサヨを他所に俺は階段を降りてその階層の中に入る。階段に表示されている数字は「7」だった。


「……ほとんど最上階みたいなもんだったな」


 そして、フロアの中に入ってみる。中にはたくさんの机と、破壊された機械がところどころに転がっていた。


 と、どこからか風が吹いているのを感じる。見ると、窓が割れていた。俺は窓の方に近寄っていく。


「おい、危ないぞ」


 サヨの言葉を無視し、窓の側まで近寄っていった。


「おぉ」


 思わず俺は声を漏らしてしまった。


 窓の外には……どこまでも暗闇が広がっていた。正確には空には輝く星々があって、その下には暗闇が続いている。


 いや、所々に灯りが付いているが、あれは街灯のものだろう。


 それが美しい光景かはわからなかったが、俺にとっては満足できる光景だった。


「……この光景が見たかったのか?」


 サヨも窓の外を見ながらそう言う。


「う~ん……いや、特にそういうこともなかったんだけど。これが見られたのは良かったかな、って」


 俺の回答にサヨはやはり不満そうだった。中々彼女の望んでいる回答をするのは難しいようである。


「……まぁ、でも、もうちょっとこの景色を見てから下に戻るか」


 そう言って景色を眺めるサヨの片方だけの瞳には、夜空の星が映り込んでいてとても綺麗なのだった。

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