第2話 道連れ
「……はぁ。世界が終わった……本当に?」
俺の反応がおかしかったのか、彼女は怪訝そうな顔で俺を見る。
「お前……知らなかったのか?」
「え? あぁ、そうだな。今まで家にこもりっぱなしだったからなぁ……世界はいつ終わったんだ?」
俺がそう言うと彼女は下のパーツがむき出しになっていない方の目を丸くして俺を見ている。
「……それなりに前だ。いや、どうだろう……もっと前かもしれない」
「君は世界が終わったことをどうして知ったんだい?」
「……当たり前だろ。朝も昼も来ない……こんな闇夜の世界が終わってないと思うのか?」
彼女は不思議な事を言う。朝や昼が来ないと世界が終わったことになるのだろうか。
「……まぁ、俺は思わないかな」
俺がそう言うと呆れ顔で彼女は俺を見た。機械だというのに随分と表情が豊かだ。
「そうか……まぁ、そう思うのはお前の勝手だ。悪かったな、楽しい旅行の邪魔をして」
「邪魔なんてしてないさ。それに、旅行を始めたばかりだからね……君はどうするんだい?」
俺がそう聞くと彼女はけだるげな視線を俺に向ける。
「……どうでもいい。どうせ私はそろそろ故障する。見て分かるだろう?」
そう言って彼女はむき出しになっている顔の一部を指差す。
「でも、君はこうやって俺と話せているじゃないか。まだ壊れてない」
「だとしても、いずれ故障するんだ。人造人間はそういうふうに作られている……お前も私のことなんて放っておいて旅行を続行しろ」
そう言って彼女はまた俯いてしまった。
俺はふと考える。この先旅行を続けるとして……この闇夜の下をずっと一人というのもいずれ退屈しそうだ。
仮に彼女が機械であったとしても、こうやって会話をすることができる。退屈を紛らわすことはできる。
「……ねぇ、君。一緒に来ない?」
自然と俺はその言葉を口にしていた。彼女は顔を上げた。
「……旅行に付き合えってことか?」
「そう。君も暇でしょ?」
俺がそう言うと彼女は目を細めたあとで肩をすくめて自嘲的に笑う。
「……終わった世界を旅行、か」
そう言うと同時に彼女は立ち上がった。
「わかった。付き合おう。私が壊れて動けなくなるまでな」
と、案外と簡単に彼女は了承してくれた。これで当分は退屈することはなさそうである。
「あ。そうだ」
と、俺は背負っていたリュックを下ろし、中身を漁る。
「えっと……これ」
俺はその中から包帯を取り出し、彼女に渡す。
「え……なんだこれ?」
「いや、そのむき出しになっている部分。君は機械だから平気かもしれないけど、仮に君が人間だったら痛々しいだろ? だから、それ、使っていいよ」
彼女は不思議そうな顔で俺を見ている。俺はリュックを背負直した。
「お前……変わっているな」
「え? あぁ……昔、よく言われたよ」
こうして俺は、久しぶりに見た人間のような機械とともに、真夜中の旅行を開始したのだった。
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