第1章 夜明けのないセカイ

第1話 街灯下

 俺が今いる世界は、完全なる夜の世界だ。


 いつからかはわからないが、世界では夜が続くようになってしまった。最後にお日様を見たのはいつのことやら……


 とにかく、俺の記憶では朝とか昼とかいう時間がやってきたのは少なくとも大分前のことだ。


 夜が続くことによってどういう不便があったのかはわからないが、世界は衰退していった。朝や昼が存在していた頃は俺の世界は重たい鉄の塊が空を飛んでいたし、人間と機械の境界線が限りなく曖昧になっていった。


 しかし、今では空飛ぶ鉄塊も、人間にしか見えない機械も、ほとんど見ない。


 そんな世界が嘆かわしいかと聞かれると、そうでもない。正直、鉄の塊が空を飛んでいるのは信じられない気分だったし、人間と機械の境界線が曖昧になるのは、俺は怖かった。


 俺が今見ているのは……ただの道路だ。整備されたアスファルトの上をただ歩いている。道路の両脇には建物が建っているが、人が住んでいる気配はない。


 そして、街灯が点在して配置されている。灯いている街灯もあれば、切れかかっているもの、消えているものもある。


 俺はそんな道路をただ歩いている。特に目的地があるわけでもない。ただ、確認したくなったのだ。世界は今本当にどこまでも夜なのか、


 そして、このどこまでも続く道路の先には一体何があるのか……


「……ん?」


 と、そんなことを思っていたら街灯の下に誰かが座り込んでいる。俺は興味本位で近づいていくことにした。


 近づいていく間にわかったが、それは、どうやら人間の女性のようだった。迷彩柄の服を着て、俯いたまま動かない。


「……もしもし?」


 俺が話しかけた途端、いきなり女性は顔を上げた。その顔は……半分が剥き出しになっていた。


 何が剥き出しになっていたかといえば、彼女の皮膚の下の部分だ。


 といっても、これが人間だったら恐ろしかったが……彼女の皮膚の下はたくさんの精工なパーツによって構成されている。


 どうやら、彼女は人間ではなく、機械のようだった。


「……なんだお前。何している?」


「え? いや、俺は……旅をしているんだ」


 彼女……でいいのだろうか? いや、ここは面倒なので彼女としておく。


 とりあえず彼女は馬鹿にした様子で俺を見る。


「呑気だな……もう終わったというのに」


「終わった? 何が?」


 すると、彼女は自嘲気味に笑いながら俺のことを見る。


「世界だよ。世界は終わったんだよ」

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