第15話 T.K トーコ サンノゼの戦い

 藤子達は、サンノゼに到着した翌日の朝、ホテルのロビーでレイノルドが迎えに来るのを待った。そこに南国風のラフな格好でレイノルドが現れる。

「藤子(トーコ)さん、お待たせしました?」

「ぜんぜん。私たちも今、来た所」

 竜也は、挨拶代わりに軽く片手を上げた。

 藤子は、レイノルドに紙袋を一つ渡し、

「昨日、頂いたACMの小型電話とサーバーのオペレーション・システムの資料だけど、何かイッパイ、バグがあるみたい。私たち、今日、アナハイムには自分達で行くから、直しといてヨ」

と、少し命令調に言った。

「えっ!はい、分かりました。大学の資料室からコピーした物ですが」

と、まじまじと紙袋の中を覗き込んだ。藤子は、そんなレイノルドに100ドル札を10枚ほど渡し、

「日当、先払い。明日、迎えに来た時、宜しく」

とレイノルドに手を振り、ホテルの玄関に向う。それを追う竜也。

(エッ!完全に忘れられてる。おいて行かれる)

 ホテルのロビーに残されたレイノルドは、ロビーのソファーに腰かけ、もう一度、紙袋の中を眺めた。そこには、昨日、藤子に渡したACMの小型電話とサーバーのオペレーション・システムの資料が有る。

 レイノルドは、直ぐに上司のあや子に連絡して相談しようとしたが思考を消した。藤子に自分の思考が読まれているかもしれない、と思ったのだ。自室に帰り、プログラムのバグ修正に取り掛かった。バグ、不具合というよりは入れ込んだ誤動作するトラップなので場所は分かっている。それから、TVを見ながら英文でレポートを書いた。藤子に悟られないように。

(エフコムに渡したデータは、バグだらけ、と、直すよう指示されました)

それを、FAXであや子に送った。

(コンティニュー そのまま続けて)と英文で返信があった。

 あや子は、レイノルドがデータを渡した後、藤子たちを逮捕する気だ。

 翌日の朝、レイノルドは、藤子たちを空港まで送るために、ホテルのロビーに現れた。

 藤子たちは、チェックアウトを済ませて、ホテルのロビーのソファーに腰を掛けている。

「藤子(トーコ)さん、南郷さん、お迎えに来ました」

 レイノルドは、片手に持っていた紙袋を藤子に、渡し、

「一応、全てバグは消せたと思います」

と言った。

「さすが!天才だと思ってた」

「藤子(トーコ)さん、アナハイムは、いかがでした?」

「やっぱり、ディズニーランドは、一日では無理があるね。また来ようっと」

 そこへ、黒いスーツを纏ったあや子が男性2人を引き連れて現れた。

「ハ~イ、出国前の事前荷物検査でーす。国家機密情報の持ち出しがないか?調べさせて頂くわネ。昨年、この国では高度技術機密情報漏洩取得禁止法が成立していて、私には、調査、逮捕の権限が与えられてるの」

そして、藤子の持つ杖を指さして、

「その、如何にも武器が仕込んである物は置いて、ソファーにお座りください」

と、静かに嫌味ったらしく、挑戦的に命令調の言い方をした。

 藤子は、後ろ手に持った紙袋を何処かに消し飛ばすよう、竜也に念を送る。

 竜也は、その声を頭の中で聞いた。チラリと藤子の後ろ手に隠し持たれている紙袋に目をやり、(移動!)と、念じた。

 藤子の手にしていた紙袋は、消えた。そこで、藤子は、あや子を睨み付ける様にギコチナく微笑みながらソファーに座る。あや子は、藤子の正面のソファーに腰かけると、

「それでは、後ろ手に持っておられる紙袋の中を拝見させて頂けるかしら?」

「はあ?」

 藤子は、何も持っていない両手を前に出して見せた。

「あら?それでは、そこで立っていただけるかしら?」

 藤子が立つのと同時に、あや子は席を立って藤子の後に廻りソファーの上を確認する。そこに紙袋がないことに驚いてレイノルドの顔を見た。レイノルドは、サッパリ分からない、という仕草を示した。

「仕方ないわね。お二人には本部にお越し願おうかしら」

「あの~、これから私たち、日本に帰るところなんですが?」

「私には、高度技術機密情報漏洩取得禁止法によりあなた達を拘束し、取り調べる権限が与えられているの」

「あのー、何言ってるか分かんないの!行きましょう、南郷くん」

 藤子は、竜也に歩み寄り、ホテルから去ろうとする。そして、竜也に(早くここから逃げよう)と念を送った。

 そこで、あや子は、FBIバッチ付きのIDカードを藤子に示し、

「だから、私は、あなた達を逮捕できるの!」

と、藤子の腕を掴もうとした。そこで竜也が、藤子をお姫様ダッコして、ホテルの外に走り出た。それに、あや子は拳銃を抜き、

「止まりなさい!」

と藤子たちに発砲しようとしたが、それより早く、と言うか同時に、藤子が、あや子と付き人の足元に一発かましていた。計3発。三連射だ。竜也は、藤子とともにタクシーに素早く飛び乗った。竜也は、先にドライバーに大量のチップを渡し、空港に急ぐよう指示をする。そして、直ぐにホテルのロビーに残して来た荷物をイメージしタクシーのトランクの中をイメージし、(移動!)と念じた。タクシーの後方、トランク付近で大きな音と振動があったので、竜也は荷物を移動できたことを確信したのだった。

 竜也は、思った。(デジャブ)いつかのサンフランシスコでの騒動。

(もしかして、後ろに追手が付いてきているのでは?空港で追いつかれ逮捕される?)

 そこで天の声

「タクシーの中から広島空港に移動しよう」

 藤子の声だ。命令だ。

 竜也は、タクシーの中の自分と藤子の姿を思った。トランクの中の荷物をイメージする。そして、広島空港を思い描き、(移動)と念じる。タクシーの中から二人の姿は消えた。

 タクシーは、サンフランシスコ空港、国際便ターミナル前で止まる。タクシーのドライバーは客席をにこやかに振り返り、目を見開き驚いた。誰もいない!

その時!黒いキャデラックが、タクシーの鼻先に急停止した。その車の中から、あや子と黒ずくめの体躯の良い男が降りて、銃を構えて、タクシーに近づいて来た。二人の銃口は、空のタクシー後部座席に向けられている。

(⁉)

 あや子は、銃口をタクシードライバーに向けた。タクシードライバーは、手を上にあげ運転席に座りながらホールドアップの状態。あや子の銃口を見つめ、恐怖で身動きが取れないようだ。

「乗客は?後ろに乗った男と女は?」

「あっしも、驚いたことに、消えちゃってまして」

(?)

 あや子は、部下の男を引き連れ、国際線搭乗口カウンターに急いだ。日本の航空会社のカウンターで、問い合わせる。

「日本人の女性、男性、倉田藤子と南郷竜也は搭乗した?」

「いえ、レコンファームは入っておりましたが、まだ、お見えになっておりません」

「そう・・・・・・」

 あや子は、辺りを見回してみた。空港に着いたばかりのタクシーに居なかったのだから、ここには居ないだろうと思う。仕方なく、ホテルに残して来たレイノルドのもとに戻ることにした。

 ホテルに戻って来たあや子は、レイノルドに、

「タクシーには居なかった。空港にも入ってない。何処へ消えたのか・・・・・・」

と、ため息まじりに呟いた。

「大丈夫です。あや子。あのオペレーション・システムは、最初に必ずACMの衛星から位置情報を受け取らないと動かないようにしてます。エフコムから、莫大な衛星使用料を頂くことになります」

 あや子は、その言葉に少し微笑んで、

「それは、ACMが莫大な利益を得ることで、私は、スパイ事件を立件してスパイを逮捕、その国に懲罰を与えなければ、何にもならないのヨ」

と呟き、ため息をついた。

「何時か、捕まえてやるから。でも、私より早く、三発も撃って来るとはネエ~」

 そこでレイノルドは、広島の会社で籐子が良く持っていた3連射する銃ベレッタM93Rを思い出したのだった。

 一方、広島空港では、黒色の車列が籐子を迎えに来ている。車に乗り込む前に籐子が、竜也に、

「一緒に、乗ってく?」

と訊いた。一応。

「いや、ゆっくり広島市内でお好み焼きでも食べて帰ります。お先にどうぞ」

「そう、ごゆっくり。ところで、例のオペレーション・システムは、何処に飛ばしたの?」

「あっ!何処だっけ?咄嗟のことで、覚えてない!」

 途方に暮れる竜也に、籐子は、

「私の所為じゃないからね。ゆっくり思い出してください」

と微笑んで重厚な車の中に入った。お付きの人によりドアが静かに閉められ、厳重な警戒警護のもと籐子は広島空港を去ってゆく。

 竜也は、藤子に、(もう一度、携帯電話とサーバーのオペレーション・システムを入手してくれ)とは頼めず、自分でこれ以上、ネットワーク造りを進めることも出来る訳もないので、何時もの様に全てを無かったことにした。会社としては、はなから竜也の提言、プロジェクトなど相手にもしていなかったので、後に世界からガラパゴス携帯と呼ばれる携帯電話の開発製造に突き進んでいくのだった。ネットワークについては、電話電信族議員、既得利権省庁のもと、国からの割り当て方式、新規高速回線造りで始まり、ネットワークの国内拡散は、世界に遅れを取ってしまう。


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