第14話 サンノゼの戦いの始まり

 藤子達は、広島空港から、東京を経由してサンフランシスコ空港に着いた。

到着口を出たところで、レイノルドが迎えてくれていた。キラキラのプラカードを頭の上に掲あげて竜也(リューヤ)と藤子(トーコ)を出迎えていた。アメリカでは、このプラカードで迎えるのが日本式だと思われているのだろう。

レイノルドは、今はスタンフォード大学にいる元エフコム広島支店アルバイトの留学生。

と言う触れ込みであったが、実はACMが日本に派遣したスパイであったのだ。


竜也に、ACMの小型電話のオペレーション・システムの資料を頼まれた藤子は、レイノルドに、

「ACMの小型電話のオペレーション・システムの資料を用意できないかな?」

とテレパスの能力を使って相談した。

「ACMは小型電話から撤退しています。資料は大学にもあり、直ぐにでもお渡し出来ますよ」

とのことだった。それに、レイノルドは、サンフランシスコ空港に来てくれれば、それ以降のご希望の予定を全て手配しておく、とのことだったので、

「アナハイムのディズニーランドは外せない!」

と、藤子は、強く念を送った。


サンフランシスコ空港で、竜也と藤子を出迎えていたレイノルドの後ろに見覚えの有る顔が現れた。以前、この空港で出迎えてくれた日本人留学生でアルバイトOLだといった、あや子だ。こちらも、仮の姿であって、CIAからACM社に派遣されていた諜報員だ。

 竜也と藤子は、ゲートを出てレイノルドの傍に近づいて行った。今回も荷物満載の全てのカーゴは竜也が押している。

 あや子が、藤子に近づき、

「あら、お懐かしい。今度は何を盗りに来たのかしら?」

と挑戦的な眼差しで呟く。

 藤子が、

「あら、今日は赤いドレスじゃないの?」

と反抗的な言葉で返す。

「今、世界各地から来る、会社の幹部たちを迎えに来てるの。あんな、マンガみたいなドレス、着る訳ないでしょう?直ぐに捨てたは」

そして、あや子は、胸元から小銃を取り出し、藤子の額に向けた。

「何しに来た?」

  藤子も、同時に銃をあや子に向けていた。

(え?あんなの持ってるの?)

 竜也は、

「あの、こんな所で、まずいでしょう」

と、あや子に懇願する様に、藤子には、自分が撃たれない様に銃を握りしめて二人の銃を降ろさせた。

「藤子(トーコ)さん、よく、こんなモン持ってゲート通れましたね?」

「プラスチックボディに、プラスチック爆弾の弾。見つからない限り金属探知機には反応しないよ」

「はあ~、そんなのまでお持ちなんですか。なんだか、テロリストみたいですね」

「あー、テロリストから買ったとか、奪い取ったとか言ってた」

「え?誰が」

「香川 崇」

「え?え?え?香川さん、今、何方にいらっしゃるんですか?」

「なんで、アンタがそんなこと聞くの?前も崇を知ってる様な事、言ってたよね」

「いや、ず~と前の知り合いというか‥‥‥」

「ふ~ん。でも、最近は何処に居るか知らない。なんか、私、避けられてるみたい」

「あ~、分かります、分かります」

「何⁉」

 藤子の持っている銃口がこちらを向いた。

(やばい!絶対、撃つ気だ)

 竜也にも秘めた能力がある。トランスポーテーション。以前、サンフランシスコに来た時に、その能力の使い方を会得した。藤子の圧のお陰ともいえる。

 竜也は、藤子の銃を見つめ、消し去った。

「あつ、テメー、何処にやった⁉」

「後で、お教えしますから。もう、行きましょう」

と、藤子を誘った。レイノルドを先頭に、タクシー乗り場に急いだ。

 一瞬、レイノルドは、後ろを振り返り、あや子と目を合わせ、二人は頷きあっていたような‥‥‥

 その時、あや子の思考が、藤子に飛んで来た。

(あのオペレーション・システムを使えば、エフコムは、会社が潰れるまでバグと故障に悩まさられるだろう)


 藤子は、レイノルドを見つめ、彼の思考を読もうとしたが、彼の思考は完全に消えた。

(?)


 レイノルドは、飛行場を出た所に、大型のワンボックスカー仕様のハイヤーを用意してくれていた。竜也は、カートをワンサカ牽いてハイヤーに荷物を積み込んだ。

 怪訝な顔をする藤子を、レイノルドは、荷物を積み込みながらチラチラと覗き見ていた。


 車を走らせ、サンノゼという地区のホテルに到着した。今回のホテルでは、ポーターが出迎えてくれて、荷物を中に運んでくれる。部屋まで持って行ってくれるだろう。チップは、その時、渡せば良い、と思う竜也であった。竜也は、今回も藤子のお付きの方から、たんまりとチップ用にドルの札束を頂いていた。ちなみに今回は、航空チケットから、ホテルまで倉田家持ちである。藤子の秘書的な人が、手配をしてくれた。

 飛行機の席が、ファーストクラスではなく、ビジネスクラスで、ホテルも五つ星クラスではなく二つ星なのは、藤子が、

「普通の会社員が仕事で出張する様に、準備しといてネ」

と、指示したらしい。普通?でない気がする。役員クラスではないの?

 藤子と竜也は、一旦、部屋に荷物を置いた後、ロビーに戻って来た。レイノルドと今後の打合せの為だ。

 藤子の姿を目にしたレイノルドは、靴が梱包されている位の箱を携えており、それを藤子に渡した。

「藤子さん、フロントにこの荷物が届いていたそうです」

「あ、有難う」

と言って、少し開けて中を覗いて確認した。

 竜也は、

(爆発物ではないだろうな?この人の場合、良くあることだ)

と思って箱の中を透視してみた。

(小銃だ)

(見るんじゃないよ。レディーの物を。撃つぞ)

(・・・・・・)

 レイノルドは、もう一つ、大判の封筒に入れた物を藤子に渡した。

「トーコさん。これがACMの小型電話のオペレーション・システムの資料です」

「お~。有難う」

「これで、仕事は終わりですね。今日の夜はこちらのホテルでとって、明日、朝はアナハイムに移動しましょう。ディズニーランドです」

「お~。いいね!」

 そこで、レイノルドは手を上げて、ホテルを引き揚げた。


 藤子は、封筒に(バグがないか大至急検証 倉田藤子)とメモを描き竜也に渡した。

「これ、エフコム開発センターのアノ娘に送って。大至急」

 竜也は、渡された封筒を見つめ、エフコム開発センターの藤子の舎弟?子分?親友?の顔を思い出し、その封筒を瞬間移動させた。

 竜也の手から封筒が消えたのを見て、藤子は、送り先に念を送った。

「本物のオペレーション・システムか大至急調べて、連絡頂戴。そしたら、封筒に返して頂戴。こちらに、戻させるから」

 そして、ロビーからそれぞれの部屋に戻った。

 小一時間位、経った頃、藤子に開発センターから念が送られて来た。

「藤子(トーコ)さん、これ、やばいです。バグと言うよりは、隠しコマンドが色んな所にちりばめられてます。全部調べてみますか?」

「いや、もういいよ。データを封筒に戻して持ってて」

そして竜也に、

「さっきの封筒、私に戻して」

と念じた。すぐさま、藤子の手元に封筒が現れた。藤子は、中を一応確認した。


 夕方6時になり、藤子と竜也の二人は、ホテルのロビーで落ち合い、このホテルのレストランに向った。レストランの席は個室の様に間仕切られている。

 席に着いて食前酒を飲み干したところで、藤子は、テーブルの上に先ほどの封筒を置いた。

「これには、大変な罠が仕込んであるんだって」

「えっ!なんでそんな物を彼は僕達に渡したんでしょうかね」

「さ~、知らなかった、とも考えられる?」

「そうですね。ACMは、小型電話などから撤退してますからね。簡単に手に入った、とも言ってましたもんね。どうしましょうか?」

「はあ~、私に聞く?これを手に入れてくれとしか言われてませんけど。主任」

「そうでした、よね。どうしましょうか?藤子さん」

と、そこでメインディッシュが運ばれて来た。オマール海老のテルミドールの他、ムール貝など蒸し炒めた物がある。

 藤子は、竜也を無視してサッサと食し始めた。

 竜也には、その藤子の食する姿は、サメが海の生き物を襲い食べている様に見えた。

 不注意である。その思考は、藤子に読まれていた。

 テーブルに有ったペッパーミルは、藤子の手により、竜也の顔面に投げつけられた。

 竜也は、それを瞬間移動させる。次から次に、ソルト入れ、調味料入れが投げつけられたが、竜也は、トランスポーテーションの能力をフルに発動し、それら全てを消し去った。

「テメー、避けんじゃね~ヨ」

「避けてませんよ、移動させてるんです」

 隣のブースのテーブルの上にはテーブルセットがわんさか転がっている。

 次には藤子の手に持つナイフで刺される気がした竜也は、そのナイフを見つめた。

 そこに、藤子のワイングラスのワインが飛んで来た。

(グラスごとでなくて良かった)

「トーコさん、すみません。なんとかこのオペレーション・システム、使える様になりませんか?」

と話を逸らした。

「なんで私が。出来る訳ないじゃない」

「そこは、人に何でもやらせる力で何とか‥‥‥」

「はあ?」

そこで竜也は、また話を逸らす。

「あの、ワインとかスパークリングワインでも頼みましょうか?グラス空いてるようで」

「酒!日本酒」

 竜也は、レストランのソムリエを呼んで、何やら指示した。

 ソムリエは、竜也に何か囁いてお辞儀をして席を離れた。

「日本料理屋から持って来るそうです。あまり銘柄は無いとのことです」

「ああ、何でも良いけど」

 しばらくしてから藤子が囁いた。

「レイノルドくんに、やらせてみよう。彼、工学部でコンピューター専攻だよね」

「そうでしたね。明日、お願いしてみましょう。彼が持って来たんですから」

 この二人の思考は、レイノルドに読まれていた。レイノルドは、

(なんで、あんなオバカな二人にプログラムのトラップが分かったんだろう‥‥‥)

と、不思議に思ったが、直ぐに考えるのを止めた。それでも、この思考は藤子に読まれていたのだった。



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